米マイクロソフト(以下、「MS」)はゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードの買収を進めていますが、発表から10ヶ月近くが経った今なお完了していません。
その直接的な理由は世界各国にて規制当局の承認が得られない、つまり独占禁止法に抵触する疑いが晴れないためです。が、間接的にはアクティビジョンが擁する超人気IP「Call of Duty」(以下、「CoD」)シリーズを家庭用ではXbox独占にするのではないかなど、プレイステーションを販売する競合のソニーが各国政府に強く働きかけていることが大きいと見られています。
そんな文脈のなか、Xbox事業トップのフィル・スペンサー氏が「PlayStationある限り、CoDの供給を続ける」と発言しました。
この発言はYouTuberのポッドキャスト「Same Brain」で飛び出したものです。スペンサー氏は「わが社はPlayStationからCoDを奪うつもりはありません(中略)それは我々の意図するところではありません」と発言。
その例えに出したのが、『マインクラフト』(の開発元Mojang)を買収した後も、家庭用ゲーム機でのオープン戦略を続けてきたことです。「マインクラフトでも遊べる場を広げてきました。CoDの行く末を考えるときにも、同じことをしたいのです」と語っています。
最近になってフィル氏は、「CoDシリーズをプレステ向けに供給し続ける」との方針を何度も繰り返しています。先週のWall Street Journal Liveイベントでも「このフランチャイズは、PlayStationネイティブで出荷され続けます。クラウドでプレイしなければならないとか、2~3年後にゲームを引き上げるようなおとり商法は考えていません」とコメントしていました。
もっとも「我々の意図は、それに意義ある限り、PlayStationにCoDを供給し続けることです…………技術はいつも移ろい続けています」と意味深なひと言も付け加えています。フィル氏やMSがどこに「意義」を見いだしているのか、いずれ技術が進化して家庭用ゲーム機が意味を持たなくなる未来を見据えているのかは不明です。
なぜ「2~3年後」と生々しい数字が出ているかといえば、おそらくPlayStationトップのジム・ライアン氏に「現行の契約期間が終わった後、3年間」CoDのプレステ版を発売すると提案したことを公に明かされ、「多くの点で不適切であり、我々のゲーマーへの影響を考慮していない」と不満を表明されたことを受けてのものでしょう。
またスペンサー氏は今回のインタビューにて、Nintendo Switch版のCoDを出したいと付け加えつつ、モバイル版の『Call of Duty Mobile』が大ヒットしていることが「より興味深い」と述べています。すなわち30億人がゲームをプレイしているとすれば、家庭用ゲーム機で遊んでいる世帯は約2億に過ぎないとのこと。
要はモバイル市場の巨大な可能性に比べれば、現在の家庭用ゲーム機戦争でPlayStationを潰すなどは考えるにも値しない、と主張したい模様です。
先月初めにも、MSはアクティビジョン・ブリザード買収の意義を説くページを開設していました。それが各国の規制当局に対する呼びかけとすれば、今回は反対勢力の筆頭であるソニーを漠然と懐柔している印象もあります。
しかし、大手プラットフォームの擁するAAAゲームに関しては、常に「時限独占」の可能性が付きまといます。実際、MS傘下にあるベセスダが開発中の『Starfield』は、今のところPS5版が出る予定がありません。CoDもプレステ版の供給を続けると約束されたとしても、Xbox版と同時とは限らず、MSがその気になれば10年20年後ということも理論的には可能でしょう。
ともあれ、この発言でソニーが態度を軟化させるのか。それとも、さらに踏み込んだ「同時かつ同じ内容、同時期に同じDLC配信」まで求めるのか。今後の成り行きを見守りたいところです。