世界各国でスタートアップなどによる技術革新を支援するイベントが開催されている。韓国では2022年10月19日と20日に「ITS 2022 - K-Innovation Company Showcase」がオンラインとオフラインで同時開催された。
これは大手企業に負けじと優れた技術を開発している企業を支援する政府主導のイベントで、2000年の開催以来、今年で23回目となる。コンシューマー向けのみならずB2B向けなど様々な技術を持つ企業225社がノミネートし、そこから選ばれた10社がプレゼンテーションを行った。
いずれも特徴のある技術を持った企業で、現代社会に必須の技術や将来のスマートシティーに応用できるソリューションなど、興味深い製品だ。韓国事情をお伝えする意味も含めて、ここでは10社の製品や技術を簡単に紹介しよう。
なお、韓国およびグローバルのメディア数社がその中から優れた企業を選ぶ審査を行っている。
1. Kanavi Mobility
Kanavi Mobilityは自動運転などに必須のLiDARセンサーを独自に開発している。LiDARそのものは、もはや珍しいものでもなく、最近では自動車以外への応用展開が始まっているが、LiDARを製造できるメーカーは少ない。韓国ではLiDAR市場の99%をアメリカや日本など海外メーカーがシェアを握っている。また輸入品であることから導入コストも為替などに左右されてしまう。
Kanavi Mobilityは国産技術によりLiDARを開発し、海外企業よりも低コストなモデルの製品化に成功した。特許も取得しており技術力は高い。ライセンス供与といったビジネス展開の拡大を視野に入れている。
2. Everchemtech
新型コロナウイルスにより人々のライフスタイルは大きく変わった。特に外食を控え、自宅でデリバリーを頼む人の数が大きく増えている。Uber Eatsなどで食事のデリバリーを頼むこともすっかり日常的になっているだろう。
しかし食事のデリバリーと共に急増しているのが食事の容器やラッピングなどの廃棄物だ。暖かい食べ物を覆うラッピングは食事の前には丸められてそのままゴミ箱へと捨てられてしまう。とある調査によるとそれらフィルムのリサイクル率は9%程度であるという。
そこでEverchemtechは、食品の劣化を防ぐために酸素を遮断する機能性のコーティングを開発。従来の石油製品を原料とするラップ材EVOH(エチレンビニルアルコール)に変わり、生分解性をもつフィルム「NEXRIER」を開発した。
主原料はチーズ製造時の副産物であるホエイプロテイン(乳清たんぱく成分)。EVOHよりも製造コストを30~40%低く抑えることができ、新たな食品梱包材としての可能性は大きい。将来的には医療分野への展開も考えている。
3. IntelliVIX
CCTV、いわゆる監視用のカメラにAIを応用する技術を開発しているIntelliVIX。最近のCCTVでは実際にAIを用いた顔認識技術なども実用化されている。しかしカメラで撮影した顔の写真や動画をクラウド側で処理する方式の場合、データの安全性に懸念が生じる。また、映像のデータ送信が許可されていない場所では使用できない。
IntelliVIXの開発したディープラーニングに基づくエッジ型映像解析装置「DCNN」はカメラ側だけですべての処理を行う。AIとディープラーニングを使った映像処理がリアルタイムで行われ、外部へのデータ接続は一切不要だ。つまり通信回線不要で利用でき、データ漏洩の心配がなくなる。カメラが外部からハッキングされることもないため予期せぬプライバシー侵害の懸念からも守ることができる。
現時点では23種類の顔の表情の認識が可能で街中の違法行為監視などにも応用でき、防犯用途やスマートシティーの構築にも大いに役立てることができる。
4. Jeejun Systems
Jeejun Systemsは、C.S.S.(クリーン、セーフ、セーブ)を考慮したインテリジェントな駐車場統合管理システムを開発している。駐車場の無人管理や駐車場での異常時の対応など、駐車場のスマート化を支援するソリューションでもある。
利用者視点も考慮されており、駐車場の空きスペースをスマートフォンで検索できるシステムが組み込まれている。駐車場内をBluetoothのメッシュ通信でカバーし、CCTVをインテリジェントサーバーで接続、自動車が入口のゲートを入ってから駐車し、料金を支払い外に出るまでの動きを管理できる。
また駐車場内の環境対策も考えられている。節電のために駐車場内の照明を落しておいても、人や車の動きがあれば自動的に照明が付き導線を確保。非常時用の非常ベルを駐車場内に多数設置している。また同社は空気清浄システムも開発しており、駐車場システムと統合することで自動車の駐車量などに応じて空気の質を向上させられる。
5. Secuworks
音を使ったセンサーは様々な製品があるが、Secuworksの「スマートサウンドフィールドセキュリティ」は火災の検知に音を使うセンサーシステムだ。複数の周波数を検知することで、センサーエリアで起きた火災を発生の初期段階から「音」の変化で検出でき、マンション、商業施設、企業、工場などあらゆる場所での利用できるという。特に火災を少しでも早く検知することが必要な電力設備や電気自動車の充電ステーションなどでは無人警報システムとしてすでに利用されている。
また、動きも検出できるため、火災以外に自宅内の高齢者の安否確認に利用できる。CCTVなどカメラによるセンサーは映像が映らない場所は死角になってしまうし、プライバシーの問題も大きいが、音だけならばその心配はない。
加えて暗い場所で利用できるというメリットもある。センサーデータが積み重なればその解析により感知精度を高めていくことが可能だ。
6. NES&TEC
いつでもどこでも飛ばせるドローンは各国で規制がかけられているが、それをくぐりぬけて飛ばしてしまうなど安全性に対する懸念が高まっている。特に障害物のない空から高画質で空撮ができるため、企業はもとより個人のプライバシーや、国家の機密漏洩などセキュリティー対策は急務だ。そのため韓国ではDJIのドローン販売が禁止されたとのこと。
NES&TECはオープンソースを利用せず、飛行制御システムを独自開発した。これを使うことでハッキングや周波数妨害などからドローンの運行を守ることができるという。また、韓国の軍事仕様暗号レベル(KCMVP)を満たしているとのこと。同社の通信システムでは、ドローンの位置や速度をGPSだけでなく搭載カメラの情報からも利用でき、正確な場所を測定できる。万が一GPSが不調になったときでもドローンが制御不能になることを防げるというわけだ。消防や災害など命に係わる用途や軍事用ドローンなどへの応用が進められている。
7. JPES
JPESの技術はかなりB2B寄りのもの。JPESは鋼板のコイルやパイプなどをラッピングする「スマートストラッピングヘッド」を開発した。
空気圧を使う梱包装置が主力だが、同社の製品はラッピング時の結合力を常に監視する、国内外初電気駆動のスマートストラップヘッドだという。ストラップヘッド部分の耐久性が高まり、メンテナンス時間も従来製品より短縮できる。これにより梱包時の自動化が捗り、工場の生産性向上にも大きく寄与できる。鋼板はあらゆる製品に使われており、最終的には消費者向けの製品コストの低減にもつながるだろう。
8. Ison
ドローンの自動運行や自動充電、将来的なレンタル・シェアシステムまでを視野に入れた製品がIsonの「ON Station 10」だ。ポールの上にドローンの格納庫を備えており、指示により格納庫の扉が開きドローンを飛ばすことができる。
ポールの上には無線充電台があり、ドローンの電力が減ったときは充電台まで戻り自動的に充電、満充電後に再び運行を開始する仕組み。市内各地にON Station 10を設置すればドローンの長距離運行も可能になる。
たとえば将来、ドローンを使った配送が一般的になるかもしれない。運送会社のトラックが配送エリアに到着。配送者が自分のスマートフォンから近場にあるON Station 10のドローンを呼び出し、トラックの荷台から荷物をドローンに載せる。そして目的地までのラストワンマイルをドローンで配送する、といった具合だ。配送先が遠くても途中のON Station 10の上に着陸して充電すればよい。将来のドローンはこのようなシステムが一般的になっているかもしれない。
9. SHENB
肌の若返り技術の開発を続けて23年という1999年創業の美容機器メーカーがSHENB。コンシューマーに若返りを行う美容サロン向けの美容機器を開発している。
同社の「Virtue RF」はマイクロニードル技術により肌の若返りを促進させる。これは微細な針で皮膚を刺激することで皮膚を再構築させる技術だ。また、高周波技術を使うことで皮膚の奥まで効果が届く。一方では安全性も高めており、高度な冷却システム(ACS)により肌を冷やして熱傷のリスクを回避、またエネルギーパルスコントロールシステム(IPRS)により肌の効率的な部分に効果を与えることができるという。
10. P&S Technology
食品や飲料容器の容器の検査を行う機械を開発しているP&S Technology。ペットボトルやガラス瓶、缶など様々な素材に対応しており、ミラートラッキングシステムで検査時の死角をなくすシステムになっている。B2B向けのため細かい情報は省くが、コンシューマー製品の目の見えないところで必要とされる、企業にとって重要な装置と言える。
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