7月に新料金プランを導入し、「0円廃止」を打ち出した楽天モバイル。予想通りの展開で、契約者の流出が続き、格安プランを打ち出すMVNOの市場がにわかに活況を呈しています。
一方で、楽天モバイルに残ったユーザーも意外と多く、収益性は改善しつつあります。残ったユーザーは、最低でも1078円を支払うことになるからです。
移行措置の無料期間も終わり、最後まで無料をしゃぶりつくしていたユーザーもとうとういなくなりました。あとはコストを減らしつつ、ユーザー数を増やしていければ、念願の黒字化を達成できる可能性があります。
ただ、契約者数が横ばいのままだと、いくらコストを削減しても収益性を高めるには限界があります。楽天市場など、エコシステムを活用した囲い込みを強化するためにも、ユーザーの規模感は重要です。この足かせになっているのが、エリアです。
ご存知の通り、楽天モバイルは4月に人口カバー率97%を達成しましたが、実態として、まだまだローミングに頼っている場所はそこそこあります。人口の少ない地方などは、そんなエリアの1つ。人口カバー率に表れていないビル内なども、ローミングでKDDI回線につながることが多いと言えるでしょう。
エリアの広さやきめ細やかさは、契約者数に直結します。それは楽天モバイル側も同様の認識。例えば、比較的エリアが広く、密度も十分な東京23区では契約率が10%を超えているのに対し、ローミング頼りの地方では、その半分にも満たないことがあります。
料金が安いのはもはや周知の事実ですが、それに加えてつながりやすさも確保できなければ、契約に結びつかないというわけです。もちろん、楽天モバイルは人口カバー率97%達成後も、基地局を増設していますが、同社が4G用に使う1.7GHz帯だけでは限界もあります。
そんな背景がある中、楽天モバイルはプラチナバンドの獲得を目指しています。700~900MHz帯の比較的低い周波数があれば、より広い範囲を少ない基地局でカバーできるからです。とはいえ、低い周波数帯にはあまり空きがなく、携帯電話用に割り当てられるところがなかなかありません。
そこで、楽天モバイルは、10月に施行された改正・電波法に基づき、プラチナバンドの再割り当てを目論んでいました。ざっくり言うと、これは他社から周波数を奪ってくる制度。その希望をヒアリングしていた総務省のタスクフォースでは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクからそれぞれ5MHz幅ずつのプラチナバンドを譲り受けたい旨を主張していました。
もちろん、奪われてしまう側はすんなり「はい」とは言いません。現在利用中の周波数、それもバリバリ活用しているプラチナバンドとなれば、簡単に手放すわけにはいかないでしょう。実際、電波干渉を避けるためのフィルターを挿入しないと通信品質が下がったり、電波を増幅するためのレピーターを交換しなければならなかったりと、譲る側にも手間がかかります。
帯域幅が減ってしまうため、そのぶん基地局を増設しなければ、ユーザー側の体感速度が下がってしまう事態すらありえます。こうした事情を踏まえ、大手3社は移行期間が10年程度、移行費用が最大1000億円前後という試算を行い、その負担を楽天モバイルに求めていました。
これに対し、総務省側の結論は、原則として5年で周波数を明け渡し、費用も既存事業者が負担せよというものでした。事実上、楽天モバイルの主張をほぼ丸飲みしたのに近い形です。これを受け、楽天モバイルは勝利宣言のようなプレスリリースまで出していました。計画が順調にいけば、24年4月にはプラチナバンドを活用したサービスを開始できるとしています。
楽天のプラチナバンド獲得は確実かと思われていた中、ドコモは総務省で開催されていた別の有識者会議で、新たな資料を提出しました。
地上デジタルテレビや特定ラジオマイク、高度道路交通システム用途(ITS)で使われる周波数帯と、携帯電話で使われる周波数帯の間に、上下それぞれ3MHzぶんの空きがあるというものです。周波数は700MHz帯。3gppでBand 28として定義されているところで、ドコモ、KDDI、ソフトバンクは同バンドを利用しています。
帯域幅は3MHz幅と少ないものの、LTEでは理論上、下り最大30Mbpsまで速度が出ます。ドコモの資料だと収容できる契約者数は、1100万人。0円廃止で500万契約を割ってしまった楽天モバイルにとっては、十分余裕があると言えそうです。
実際、海外では米国やベトナム、インドで3MHz幅のLTEが運用されているといいます。プラチナバンドは容量の確保ではなく、エリアの拡大が主な目的。音声通話やちょっとしたデータ通信ができればいいのであれば、太いパイプは必要ありません。
この資料が提出された有識者会議は「新世代モバイル通信システム委員会技術検討作業班」。楽天モバイルへのプラチナバンド割り当てを議論していたタスクフォースとは異なります。
一方で、あえて収容可能なユーザー数を明記していたり、海外での導入事例を挙げていたりするところを見ると、ドコモ自身で獲得を目指すというより、暗に楽天モバイルに割り当てるべきだと言っているような印象もあります。
プラチナバンドの再割り当てが確実視されていた中、突如ドコモから放たれたダークホースですが、サービスインを急ぐのであれば、こちらの方が現実的な印象も受けました。
再割り当ての場合、あくまで5年かけて徐々にエリアが広がっていくため、エリアの完成には時間がかかるからです。500万弱ユーザーのキャリアがエリア対策に使う周波数帯に15MHz幅もの帯域幅が必要なのかという意見も根強くあります。
敵に塩を送った格好のドコモですが、それだけ周波数を奪われてしまうことに強い抵抗感があったとも言えそうです。
実際、楽天モバイルの再割り当てを議論していたタスクフォースでも、電波の有効利用という観点で、ユーザー数の少ない楽天モバイルに、大手3キャリアに近い15MHzを割り当てる必要があるのかといった声は上がっていました。エリア対策をするだけであれば、もっと少ない帯域幅でも事足りてしまうからです。
この際にも、参考としてドコモは帯域幅ごとの収容可能なユーザー数を挙げていました。3社から奪い取るのではなく、楽天モバイルの実情にあった帯域幅があればいいのではというわけです。
700MHz帯で3MHz幅を確保できる可能性が出てきたことに対し、楽天モバイルは「プラチナバンド再割当以外の新たな選択肢になりうる700MHz帯の3MHzシステムの検討が開始されたことを歓迎いたします」と語っています。
同周波数帯が利用できるかどうかの取りまとめは、23年春ごろに出てくる予定。急ピッチで作業を進めれば、楽天モバイルが予定していた24年3月のサービス開始に間に合う可能性もあります。