米連邦取引委員会(FTC)は、米マイクロソフト(MS)によるゲーム大手アクティビジョン・ブリザードの買収計画の差し止めを求める訴訟に踏み切りました。
FTCの声明によると、MSのアクティビジョン買収は「同社のゲーム機Xboxや、急速に成長している定額制コンテンツ(ゲームサブスクリプション)やクラウドゲーム事業において競争相手を抑制する可能性がある」とのことです。
ここ最近、MSがさかんにアクティビジョンの主要IPである「Call of Duty」シリーズを他社のプラットフォームに今後も提供し続けると申し出ていたのは、近日中にFTCが反トラスト法訴訟を起こす可能性があると報じられていたからです。
最強のキラーコンテンツをXboxに独占するつもりは微塵もない、実際にMojangを傘下に収めて手中とした『マインクラフト』もPlayStationやNintendo Switchに提供してきたではないかというわけです。
今年10月にアクティビジョン買収の意義を説くページを開設したことも、反トラスト法に背く気はないキャンペーンの一環でした。「プレイヤーやクリエイター、業界全体に利益をもたらすものだ」と力説していたのは、強硬に反対はしているがゲーム業界のいちプレイヤーに過ぎないソニーよりも、許認可権限を持つ各国の規制当局、特にFTCを見据えてのものと思われます。
その意味でFTCによる提訴は意外でも何でもありませんが、興味深いのはMSが過去にベセスダ・ソフトワークスの親会社ZeniMaxを買収した件を挙げていることです。それは「貴重なゲームコンテンツを獲得・利用して、ライバル機との競争を抑圧してきた実績」としてのこと。
FTCの主張によれば、MSは欧州の反トラスト当局に対し、ライバル機からゲームを引き離す動機はないと断言していたにもかかわらず、ベセスダが発売予定の「Starfield」や「Redfall」、「The Elder Scrolls VI」をMS独占にすると決定した、とのことです。
「Starfield」がXboxとPC独占になることは公式に発表済みであり、「The Elder Scrolls VI」についてはXbox部門トップのフィル・スペンサー氏が同様の扱いにすると述べていたことがあります。実際に有力IPを(家庭用ゲーム市場では)Xbox独占として、ライバル機から引き離したばかりだというわけです。
この訴訟のニュースを受けて、MSの法務や政府との渉外を担当するブラッド・スミス副会長は法廷で闘う準備は万端だとの趣旨をツイートしています。「我々は、今週初めにFTCに譲歩案を提示するなど、競争の懸念に対処することに初日から取り組んできました」「平和的に解決できるチャンスを信じているが、訴訟に完全な自信を持っており、法廷でそれを提示する機会を歓迎する」とやる気満々のようです。
こうした強気な姿勢は、単なる表向きの虚勢というわけでもなさそうです。米Ars Technicaは、アクティビジョン・ブリザードのボビー・コティックCEOが従業員に送ったメッセージを紹介しています。
その中でコティック氏は、この訴訟が「憂慮すべきもの」に思えると認めながらも、「この取引が成立することに自信を持っている」と表明。さらに「この買収が反競争的との主張は事実と一致せず、我々はこの挑戦に勝つと信じている(中略)イデオロギーやハイテク産業に対する誤解に軸足を置いた規制環境の中ではあるが」と述べているそうです。
これらを総合すると、FTCはMSのZeniMax買収を認めてしまったことを後悔しており、アクティビジョン買収では二度と間違いを繰り返さないと決めたようにも推測されます。MSはCoD新作を10年提供する約束を各社のプラットフォームに連発する前に、まずベセスダ新作のXbox独占を撤回すべきだったのかもしれません。