年末になって「今年の話題ランキング」が発表される時期になった。
GoogleとNetflixのランキングを見ていて、ちょっと気がついたことがあるのでまとめてみたい。これは、世界とコンテンツビジネスを、特に日本の視点で考えるとき、非常に大きなことなのではないかと思うからだ。
※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年12月12日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。
Googleの2022年検索ランキングに異変
Googleの2022年検索ランキングの「歌」部門が面白い。
曲名によるグローバル検索ランキングのトップ10を見ると、なんと日本のアーティストの曲が3つもランキングしている。
具体的には、Official髭男dismの「ミックスナッツ」、Adoの「新世代」、SEKAI NO OWARIの「Habit」の3曲だ。
▲Googleのグローバル検索ランキングより。楽曲タイトルのトップ10内に、日本アーティストが3つも入っている(傍線は筆者)
この3曲は、どれもアニメ・コミックス関連作品のテーマ曲である、という共通項がある。
「ミックスナッツ」はアニメ『SPY×FAMILY』の、「新世代」はアニメ映画『ONE PIECE FILM RED』のテーマ曲であり、「Habit」はCLAMPの大ヒットコミック『ホリック xxxHOLiC』の実写映画版テーマだ。
前者2つについては世界的にヒットしており、その影響があったことは間違いない。後者は劇的な大ヒット映画にはなっていないが、一方で、「Habit」のダンスがいわゆる「踊ってみた」系列でバズり、YouTubeやTikTokで爆発的に広がっている。結果としての検索、と考えられる。
なるほど……と思うが、別の視点で見るとさらに興味深い。
以下はアメリカの楽曲検索ランキングである。ワールドランキングとはまったく様相が異なることに注目していただきたい。
▲アメリカでの楽曲検索ランキング。ワールドワイドとはまったく違う結果になっている
従来、エンタメのヒットは「アメリカでのヒット」が大きく伝えられてきた。それは、ハリウッドというエンタメの中心地があり、大手音楽レーベルの力があり、ニュースとしての中心もアメリカになりがちだったからだ。特に日本の場合、アメリカのニュースに影響されやすすぎた、というところもあっただろう。過去には、インターネット利用者もアメリカが多く、ネット検索全体の動向にもアメリカの影響が色濃く出やすかった。
だが、今回のような結果を見ると、世界のエンターテインメントがアメリカからの単純なシャワー効果を脱し、それぞれの国での影響が蓄積されて「世界のヒット」になる、という流れを示唆している。
Netflixトップ10から見える「日本作品のアジアヒット」
では、日本のタイトルはどこで具体的にヒットしているのか?
ここでは、Netflixが毎週公開している「視聴量トップ10」情報を使って考察してみよう。今週(11月28日から12月4日までの集計分)は特に面白い傾向が出ているからだ。
世界のテレビ番組(ドラマ・アニメ・バラエティなど)のうち、非英語作品部門のランキングを見てみよう。
11月24日に配信を開始した『First Love 初恋』が、グローバルランキングで5位に入っている。Netflixによると、日本では公開以来12日間1位を連続して獲得したそうなのだが、オリジナル作品で公開初週にグローバルランキング入り、はなかなかすごい結果である。
▲Netflixのグローバル視聴時間ランキングで、『First Love 初恋』が5位に
では、この作品はどの国で支持をされているのだろうか?
これは、以下の画像の国々だ。この集計範囲では世界8カ国、Netflixのリリースによれば11カ国でトップ10入りしたのだという。
注目すべきはどの国々で支持されたのか、という点だが、見事にアジアの国々に固まっている。
▲『First Love 初恋』がトップ10入りした国々。アジアに集中している
同じようにNetflixオリジナル制作で、アメリカで作られた『ウェンズデー』は、世界93カ国でヒットしている。これはもう圧倒的である。
▲『ウェンズデー』がトップ10入りした国々。メガヒットになると世界中で視聴される
が、こんなふうに、世界中で同じように大ヒットする作品は年間数本しかない。
ランキングは世界中で大きく異なる。好まれる作品が明確に違っていて、単純に「宣伝される作品」で決まるわけではないことも見えてくる。以下は、アメリカ・イギリス・タイのトップ10だが、中身は全然違う。
▲上から、アメリカ・イギリス・タイのトップ10
地域差が反映されたことが、ヒットの多様化を生んでいるのは間違いない。
世界システムがヒットを「世界から世界へ」に拡散
冒頭で、Googleの検索結果ランキングから「ミックスナッツ」のヒットを取り上げた。『SPY×FAMILY』のヒットと連動した結果だが、Netflixのヒットランキングを見ると、『SPY×FAMILY』はまさに、アジア各国で深く愛されるコンテンツになっているのがわかる。しかも、ヒットしている国では10週以上トップ10入りを続けている。もちろん欧米でもヒットはしているのだが、新作と言える作品が、欧米だけでなくアジアにも、素早く強く浸透するようになったのは、現在の変化と言えるだろう。
▲『SPY×FAMILY』は日本で27週連続トップ10入り
▲『SPY×FAMILY』はアジアの国々でヒット。連続10週以上ランキング入りを続けるところも
このように、日本の作品は現状、アジアでヒットしやすい。だが「特定の国に深く刺さる」という現象は、いろいろな国で生まれているようだ。タイでトップ10に入っていた『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』は、アジアだけでなくブルガリアや、カリブ海の群島であるグアドループでもヒットしている。
▲タイでもヒットしていた『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』は、アジア以外でも支持されている
トップ10に入っているものだけを軽くリサーチしてみただけだが、きっといろいろな国で生まれた作品が、別のさまざまな国でヒットするようになっているのだろう。
このようなトレンドは、まさに「グローバルな配信システム」が生み出したものだ。それは、NetflixにしろGoogleにしろ、アメリカ企業が作ったシステムではあるのだが、結果的にその利用が世界に拡大することで、販路が「アメリカからグローバルへ」ではなく「グローバルからグローバルへ」に変化している、というひとつの証と言えるのではないだろうか。