英国のコメディ集団モンティ・パイソンの代表的なスケッチ『バカ歩き省』に登場する変な歩き方について、新しい研究が医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに掲載されました。
『バカ歩き省』とは、英BBCのコメディ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』で1970年9月に初めて放映された有名なスケッチ。
このなかでジョン・クリーズ演じる公務員が見せた「バカな歩き方」に関する最新の研究によると、この「バカ歩き」は通常よりもエネルギー消費が大きく、非効率的であるため、心肺機能を高める効果があるとの結果が報告されました。
今回の研究の前、2020年には、ダートマス大学のチームが「バカ歩き」を分析した研究を発表しています。当時の研究では、BBCで放映されたオリジナルのスケッチと1980年にロサンゼルスで上演された舞台上での、マイケル・ペイリン演じるピューティー氏と、ジョン・クリードが演じたティーバッグ氏の歩き方を分析。
ピューティー氏の「それほどバカでない歩き方」が普通の人間の歩き方に比べ3.3倍ほどの変化量(=バカさ加減)を含むことがわかった一方、ティーバッグ氏は6.7倍もイレギュラーな動きだったと報告されていました。
ただ、この論文では「バカ歩き」によるカロリー消費量などは調べられていませんでした。アリゾナ州立大学のグレン・ゲイサー氏をはじめとする研究チームは、人間は疲労の蓄積を抑えるためもあってますます効率的な歩き方をするように進化してきたものの、心肺機能の維持向上にとっては、実はバカ歩きにみられる「動きの非効率性が望ましい特性かもしれない」と指摘し、より非効率的な歩き方をすることで、エネルギー効率を低下し、長時間の運動をせずとも心肺機能を高められるかもしれないと考えました。
そして、研究では22歳から71歳までの健康な成人男女(女性6人、男性7人)を揃え、長さ30mの屋内コースを「普通の歩き方」、「ティーバッグ氏の歩き方」、「ピューティー氏の歩き方」で5分ずつ歩く試験を実施しました。また被験者は全員、データ収集のための代謝測定器を装着し、酸素摂取量、カロリー消費量、運動強度を測定しました。
その結果、ティーバッグ氏の「バカ歩き」は、一般的な歩き方よりも約2.5倍もカロリー消費が増え、8METsという、ランニングやスイミングを8分ほど続けて行ったのと同じぐらい激しい運動に相当する負荷がかかることが判明。
これほどの負荷がかかるのであれば、毎日一生懸命「バカ歩き」に励めば、かなり健康増進効果が期待できそうです。一方で、ピューティー氏の「それほどバカでない歩き方」の場合は普通の歩き方と比べてもそれほど心肺機能への負荷は変わらず、データ上でも「それほどバカでない」ことがわかりました。
結論としては、歩行機能に関する傷害がない成人ならば、1日に平均11分間ティーバッグ氏スタイルの「バカ歩き」をすることで、1週間に75分間の激しい運動をしたのと同じ効果が得られるとのこと。もし1970年代に本当に「バカ歩き省」が存在し、この歩き方を人々に広めていたら、今の人々はもっと健康的だったかもしれないと、論文はまとめています。
なお、「現時点では、この研究結果や運動効率を下げる提案を登山や水上スポーツ、都市圏内でのサイクリングなどに一般化することはおすすめしない」とこの研究の結論は述べています。研究者はその理由を「非効率的なダンス」で説明しました。
「過去何世代にもわたって、非効率的なダンスは存在してきまたものの、地方のナイトクラブやクルーズ船などにおける非効率的なダンスは、多くの場合で称賛よりも嘲笑の対象になってしまう」とのこと。「バカ歩き」こと非効率的な歩き方をどうしても試したい場合は、ウォーキングで人目のない路地に差し掛かったときなどに、軽く試してみるのが良いかもしれません。
ちなみに「今回の研究ではマスクをしていたこともあり、非効率的な歩行中の、笑いに費やした時間や笑顔の回数をカウントすることはしていない」と研究者は述べています。ただ、バカ歩きをした被験者はみんなが笑顔になったと報告しました。仲間どうしで互いのバカ歩きを、笑いあうことができれば、心理的な健康にも良さそうです。