HomePod(第2世代)が発表された。このスピーカーの一番のポイントは「お買い得」ということだ。
「4万4800円でお買い得だって? 円安だしどう考えても高いだろ」とツッコミたい方々が多いと思うが、現在のHomePodが持つ価値を総合的に評価すると、コイツはなかなか優れものなのだ。
確かに「スマートスピーカー」というジャンルで評価し、アマゾンやグーグルの製品にすれば高価に感じるだろう。アップルが2018年に米国でHomePodを発売した頃ならば、単なる高級スマートスピーカーと言われても仕方がなかった。
この記事を書いている僕自身が、画期的なスピーカー部の設計を評価しながらも、当時は「これ必要?」と思っていたのだ。しかし現在のHomePodは、アップデートにより当初より進化した初代モデルを含めずいぶん進歩し、その価値が高められた製品になっている。
初代モデルの発売当初、この製品から将来は立体音響が出てくるようになるよと言われても「そうなるといいね」程度の反応だったのだが、当時から大きく進歩し、関連サービスや機能の質も上がってきた。
ただ、今となっては初代HomePodは購入できない。そんな中で、米ドルベースでは以前と同じ価格で第2世代が登場した。初代モデルは価格引き下げがあったので、初代の登場時よりは安価になっている。
「一体、初代から何が進化したの?」と、スペック表からは思うかもしれない。もちろん、音質チューニングも変わってるようだが、そもそも進化の果てに、A8チップの入手性のためかディスコンとなっていたHomePodが「再び買えるようになった」こと、そして新たなる進化のスタート地点になりそうなことがHomePod(第2世代)の価値だろう。
ソフトウェアと連動サービスで価値を高めてきたHomePod
正月早々に取材したCES 2023で、何度も会話の中に出てきた言葉にSoftware Defined Vehicleがある。
その意味は前回の記事を見ていただきたいが、初代HomePodはソフトウェアによって機能定義され、さらにそのアップデートで機能、価値を高めてきたスピーカーだった。単に接続するサービスや機能が増えるだけではなく、スピーカー体験そのものをアップデートしてきた。
そもそもHomePodのスピーカーアーキテクチャは独特だ。
20センチウーファーはディフューザーを通じて全方位に放出され、指向性の高いビームツイーターを下部に搭載する(初代は7基、新型は5基)。ツイーターは中心部のディフューザーに向けて方位するように配置され、そこから各方向へと音を放出するが、周囲の音を検出するマイクがビームツイーターより1個だけ少なく搭載されており、周囲から反射してくる音を常時モニターしている。
ここでの詳細は省くが、この仕組みによって置かれている環境をHomePod自身が認識し、部屋の隅々まで心地よく音が届くようにビームツイーターの音を変えている。常時モニターしているので、行き場所を動かせば自動的に検知し、だんだんと馴染んでいく。
──と、そもそもの基本コンセプトがかなり面白いのだが、初代HomePodの発売当初はあまりその仕組みや良さが理解されておらず、また利用できるシーンも限られていたことは確かだ。しかしiPhone 6に内蔵していたApple A8プロセッサをそのまま搭載していただけのことはあって、その後のコンピュテーショナルオーディオの進歩とともに常に改善が進んできた。
日本での発売は米国での発売から1年以上後の2019年夏、ステレオ機能が搭載されて音質もさらによくなった後のことだが、さらには空間オーディオが発表されるとDolby Atmos対応まで果たした。1台だけでもDolby Atmosは機能するが、2台をペアリングするとさらに豊かな表現となる。
このようにソフトウェアで進化してきたHomePodだが、その間にApple Music、HomeKit、Siriの改良も続き、Apple TVと一緒に使うと容易にホームシアターを構築できるようにもなっている。この際、HDMIのeARC機能を通じてテレビとも連携動作し、テレビの音声も再生できる。シンプルに言って、HomePodという製品そのものが、2018年の頃とは別物になっていると言えるだろう。
断然お得感あるステレオペアでの導入
中でもステレオペアでの導入にはお得感があると思う。大型テレビをお持ちなら、リビングルームのテレビ用サイドボードの左右に置くのにピッタリだ。2台購入しても9万円ほど。Apple TVをお持ちなら連携させればいい。IPTV端末をお持ちでないならファンレスかつコンパクトになっている現行Apple TV 4Kはオススメだ。
10万円出せば、上方向の音の広がりを再現するイネーブルドスピーカー付きのDolby Atmos対応サウンドバーも入手できるが、例えば低域も十分に出せるオススメのサウンドバーとなるとソニー「HT-A5000」が約12万円となる。HomePodを2台購入した上でApple TV 4Kも入手できる価格だ。
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少ないスピーカー数でDolby Atmosを実現する360 Spatial Audioを実現するには、さらにワイヤレスのリアスピーカーを足さねばならない。360 Spatial Audioは素晴らしい技術で、最上位のソニー「HT-A9」(約24万円)は現在も大人気モデルだが、リアスピーカーの設置までは考えられないということならば、HomePodのステレオペアはとても魅力的だ。
加えてHomePod独特の「部屋全体を満たすような音楽体験」は、映像作品を見ていない時のリビング空間を上質な音楽で満たす上でとても満足感が高い。さらに言えば、低域の再生能力も、サウンドバー相当で言えばさらに上位の海外ブランドものに近いレベルだ。
実はこんなことはHomePod(第2世代)が発表されるまで考えてもなかったのだが、初代モデルの地道な改良や、HomePod miniのヒットと関連サービスの充実などの変化、Apple TVとの連携、世の中全体がオーディオ・ビジュアルともにストリーミング全盛となってきたこともあり、実はステレオペアで使うHomePodはいつの間にかAVシステム用スピーカーとして価格性能比から見ても優れたものになっていた。
もちろん、1台だけの導入でもその価値の多くは享受できるのだが、HomePodの良さはステレオペアで際立つ。
HomePod(第2世代)は何が変わった?
さて、そんなHomePod(第2世代)ではビームツイーターとマイクアレイの数が、それぞれ2個づつ減っている。つまり指向性のコントロールは以前よりも粗くなってることになるが、以前にはなかった低域専用の自動調整マイクにより、壁との距離による低域量感の変化を、増量・減量、両方向で自動補正するようになったということだ。
また搭載される半導体はApple Watch Series 7と同じS7というSiPになった(SiP:システム・イン・パッケージ。複数のいろんなチップを一つにまとめたパッケージ)。これはiPhone 11世代に搭載されていたA13 Bionic世代の高効率コアを2個搭載している。
HomePod(第2世代)には置かれてる部屋の温度・湿度をモニタし音声で答える機能、連動してエアコンを動かすなどの動作も対応しており、加速度センサーも搭載しているが、それはこれらが全てSiPに組み込まれているからだ。
(加速度センサーは「場所が変更された」ことを検知するため初代モデルにも入っていた。温湿度計は HomePod mini も搭載しており、新たなアップデートで初めて利用できるようになる)。
したがって、Apple Watch向けに搭載されている高精度な加速度センサーで落下、あるいは地震などの災害を検出してアラートをiPhoneに発信したり、HomeKit対応カメラから部屋の様子を見せるといったことが可能になるかもしれない。
なお、アップルはHomePodの内蔵マイクが警報音(煙やガス、火災などの報知器の音)など注意すべき物音を聞き取ると、iPhoneに通知で警告を送るアップデートをHomePod、HomePod miniに施す予定だ。
話が横道に逸れたが、回路設計は半導体製造技術と深く関係しているため、S7に内蔵される音声DSPは、CPUと同じくiPhone 11世代と同じものが入っていると考えていい。Apple Watch程度のCPUでどこまでできるの? と訝しむかもしれないが、オーディオ処理に関していえばDSP性能の方が重要だ。
近年、アップルのコンピュテーショナルオーディオ技術の向上は目覚ましいが、iOSなどその他の製品向けに開発される信号処理技術の進歩も取り込みやすく、その恩恵をしばらくは受け続けることができるだろう。
1000種類の設置環境で1万曲の調整をかけた補正用教師データ
2020年に発売されたHomePod miniのSiPであるS5には、もうひと世代前の回路コンポーネントが入っているが、当然、初代HomePodのA8よりは信号処理能力が高い。そんなHomePod miniで導入された、曲そのものを分析して最適な特性で鳴らす技術もHomePod(第2世代)には実装されている。
HomePod miniがあのサイズで高い音圧を出せること、また音圧を上げても歪んだりせず心地よく聴けるのは、曲をリアルタイムで分析しながら最適に(システムが再生できる能力を100%活かす形で)鳴らせるこの機能があってのこと。
HomePod(第2世代)の場合、さらにこの機能を磨き込み、空間オーディオの再現性なども含め、極めて多くの場面での機械学習をかけているという。その数、なんと1000の異なる設置場面で、多様な楽曲1万曲を再生させて評価・確認しながら開発しているとか。
機械学習による処理の深み、的確度は、処理能力の違いによる推論モデルの複雑さでも変化するが、学習させる教師データの取り方や量、時間など、かけるコストによっても変化する。
1000の設置環境で、1万曲を用いて評価したというその音質。どこまで、ポンとその場に置いただけで良い結果が得られるのか。その結果がどうなるか今から楽しみだ。
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