ソニーの「Xperia 1 V」が、6月中旬に大手キャリアから発売されます。また、今回はソニー自身の販路で展開するオープンマーケット版(SIMフリー版)も同時に発表済み。SIMフリー版の発売時期はキャリア版からやや遅れるものの、7月下旬に市場に投入します。
発売に先立ち、ソニーはメディア向けに改めて同機種を解説するとともに、強化されたカメラなどを試せる体験会を開催しました。
Xperia 1 Vは、メインとなる24mmの広角カメラに使われるイメージセンサーが久々に刷新されたモデルです。1つ目が、センサーサイズの大判化。2020年に発売された「Xperia 1 II」以降、Xperiaは1/1.7インチセンサーを採用し続けてきましたが、ハイエンドモデルの大判化の流れについに乗り、Xperia 1 Vのそれは1/1.35インチになっています。1/1.7インチは、すでにミッドレンジモデルにも当たり前のように採用されていることもあり、センサーの刷新はマストだったと言えるでしょう。
ただ、市場にはすでにより大きな1インチセンサーを搭載した端末もあります。これに対し、ソニーが採用した1/1.35インチセンサーは、世界で初めての「2層トランジスタ画素積層型CMOS」である点が特徴です。
これはソニーグループでイメージセンサーを開発するソニーセミコンダクタソリューションズが、2021年12月に発表した製品。従来は一層で構成されていたフォトダイオードとトランジスタを2層に分け、光を取り込める量を増やしています。
ソニーは、このセンサーとスマホならではのコンピュテーショナルフォトグラフィーを組み合わせることで、低照度での撮影がフルサイズセンサー並みになったと主張しています。
実際には重ね合わせの処理もあるため、単純にフルサイズのデジカメとは比較できませんが、同モデルで撮った写真は以下のとおり。比較のために同じソニーのデジカメである「α6400」(センサーはAPS-C)で撮影してみましたが、確かに明るさやノイズの少なさではXperia 1 Vが勝っています。
「Xperia 1 IV」で搭載した、焦点距離が85mmから125mmの間で可変する「本当の」望遠ズームレンズも引き続き搭載します。
スマホカメラの望遠は複数のカメラを切り替えて実現することが一般的で、中間の画角はデジタルズームやAIによる画質補正で補間しています。
こうした風潮に対し、光学で殴りにいくXperiaは健在。センサーやレンズなどのスペックはXperia 1 VIと同じですが、キャリブレーションによって、解像感が若干上がっているようです。
Xperia 1 II以降、αのユーザーインターフェイスを取り入れてきたXperiaですが、スマホならではの“縦撮り”のニーズも根強く、初めて「Photography Pro」に縦UIが実装されました。
縦にした場合はシャッターキーではなく、画面上のシャッターボタンで撮影する仕様。スマホサイズで縦撮りするなら、やはりこちらの方が使い勝手はよくなります。
5世代目にして、αのよさとスマホのよさがいい塩梅で融合されてきたように見えました。画質向上と相まって、競争力の高い端末に仕上がっている印象です。
一方で、昨今の円安ドル高な為替相場や原材料の高騰を受け、オープンマーケット版の価格は20万円弱にまで跳ね上がっています。初めてオープンマーケット版を投入したXperia 1 IIの価格は12万円強だったことを考えると、1.6倍程度価格が上がってしまったことになります。キャリア版は20万円をオーバーしていることもあり、なかなかに手が出しづらい金額と言えるかもしれません。
とはいえ、こうしたハイエンドモデルの高価格化は、ソニーに限った話ではありません。最近では、最上位モデルが20万円前後になるのが当たり前のようになってしまいました。ただ、いくら物価高の傾向があるとはいえ、ユーザー側の収入がいきなり1.6倍になっているわけではなく、割高感が出てきています。結果として、昨年以降、スマホの販売に急ブレーキがかかっており、特にハイエンドモデルにはその影響が直撃していると言います。
ソニーのモバイルコミュニケーションズ事業部 事業部長の濱口務氏も、「全体の市場規模が厳しいことは確か」だと言います。一方で、「Xperiaとして目指すところがあってものづくりを進めている。ソニー全体としてもクリエイターエコノミーをターゲットにしている。優先して注力する領域として、高付加価値のところでしっかり収益率を高めながら、そこに見合った固定費の構造のビジネスを作り上げていきたい」(同)としています。
また、Xperiaは「数あるソニーの商品のなかで、お客様が初めて触れるソニーの商品になる可能性が高い」とも同氏は言います。これは、同社が1980年代に投入した「My First Sony」に近い位置づけ。ここからαなり、BRAVIAなり、PlayStationなりに橋渡しができる可能性があるというわけです。
ハイエンドモデルの市場が厳しいからといって、ソニーにとっては、売れ筋であるミッドレンジ以下のモデルにラインナップを絞ってしまう理由はないと言えるでしょう。利益が出せているなら、なおさらです。
こうした位置づけに加え、Xperiaはイメージセンサーのショーケース的な役割も果たしていると言えそうです。Xperia 1 Vが採用した2層トランジスタ画素積層型CMOSは、ソニーセミコンダクタソリューションズ肝入りの新製品。イメージセンサーの大判化や高機能化が進むなか、幅広いメーカーがハイエンドモデルに採用することが予想されています。
5月25日に開催された事業説明会で、ソニーセミコンダクタソリューションズの代表取締役社長兼CEO、清水照士氏は、「2層トランジスタ画素技術もいよいよ量産化に入り、広いダイナミックレンジや低ノイズを実現する差異化技術として、今年は本製品のローンチに注力していく」と語っていました。Xperia 1 Vは、その先行的な事例になっていると言えるでしょう。ここでの評価が高ければ、同様のセンサーを採用するメーカーが増える可能性もあります。
ソニーにとっても、Xperiaにいち早く最新鋭のセンサーを搭載でき、優位性を発揮しやすくなります。スマホ事業はセンサー事業とのシナジー効果も高いと言えるでしょう。ただ、やはりもう少し手に取りやすいハイエンドのXperiaがほしいのも事実。
「Galaxy S23 Ultra」とは別に「Galaxy S23」があるサムスンや、「AQUOS R8 pro」の下のラインとして「AQUOS R8」を立ち上げたシャープのように、シェアを上げていくうえでは、より買いやすいハイエンドも必要になりそうです。
その役割は、今後登場するであろう「Xperia 5 V」が担うのかもしれませんが、Xperia 5は価格面以上にコンパクトさを売りにしているシリーズでもあります。市場環境の変化にこたえるためには、1と5の間に位置づけられる「Xperia 3」のような端末があってもよさそうです。