スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、オランダ・デルフト工科大学などからなる研究チームが、ChatGPTと人が共同で設計開発したというトマト収穫ロボットを開発しました。
研究者らは、人類の将来にとって最も大きな課題はなにかを何度かChatGPTに問いかけ、それが食料供給にあるとの結論に至りました。そしてこのAIは、最も生産に対する効果が大きな作物のひとつとしてトマトを提案し、研究者らはトマト収穫ロボットを作ることにしました。
ChatGPTは設計開発段階でも役に立ちました。研究者は「収穫時にトマトを潰してしまわないためのグリッパーをシリコンやゴムなどの柔らかい素材で作る」ことや、「ロボットの駆動にはDynamixelモーターが最適」などのアドバイスがChatGPTから得られたと述べています。
また、研究者らはプログラムコードの生成など、ロボットの設計開発にもChatGPTを活用し、人としての作業はこのコードの改良、CADモデルの作成、デバイスの製造、その他機能のトラブルシューティングなどを行ったとのこと。
ChatGPTからのアドバイスを取り入れて作業した結果、人とAIの共同開発によるトマト収穫ロボットが完成しました。このような開発の仕方は、おそらく時間がかかるであろうコンセプト段階のアイデア出しにかかる時間を短縮し、頭を悩ませることなく実際の開発に着手できるメリットがありそうです。
ただ全体としては、人の役割がより技術的な作業にシフトしていることもわかったと述べています。研究者いわく、これまでは「コンピューティングは主にエンジニアの技術実装を支援するために使用」されてきたのに対し、「初めてAIシステムが新しいシステムを考案し、高レベルの認知タスクが自動化可能になった」とのこと。
一方、今回の研究のような開発シナリオの場合、現在の大規模言語モデル(LLM)が抱える問題である「誤情報の出力」が、設計段階で出されたアイデアの根拠として用いられてしまうリスクも考えられます。今回の研究に当てはめると、たとえば「Dynamixelモーターが最適」かどうかは、他にも選択肢がないか確認するほうが良さそうです。(Dynamixel製品は世界各国で教育、研究、ホビー用として使われ、また産業用途までカバーできるブランドとして知られているため、今回は妥当と言えそうですが)。さらにLLMが学習した情報によっては、出力された情報の中に第三者の知的財産が含まれていたり、工学的、または倫理的に重大な誤りを含む可能性もあります。
このような懸念はあるものの、研究者らは、適切に管理されれば人間とAIのコラボレーションには大きな可能性があると考えています。研究者らは今後も、トマト収穫ロボットを通じて、21世紀の課題解決のためのロボット工学に必要な創造性と革新性を妨げずに、LLMをどう活用できるかを研究していくとしました。
Stella, F., Della Santina, C. & Hughes, J. How can LLMs transform the robotic design process?. Nat Mach Intell (2023)
https://doi.org/10.1038/s42256-023-00669-7