電力源としてUSB充電器が使えるという機器はかなり多いですが、そのほとんどが5Vで動作しています。Quick Charge(QC)やUSB Power Delivery(USB PD)など、さらに高い電圧・電力を扱える規格が登場してずいぶん時間が経つというのに、なんだか不思議です。
この理由はいくつもあると思いますが、一番ありそうなのが、USBはすべて同じだと認識している人が少なからずいる、という問題です。形が同じなんだから同じだろ、というタイプですね。
いくら、「USB PD対応で9V、18W以上出力可能な充電器を使用してください」といった注意書きをしたところで効果は薄く、なんだったら、「同じUSB Type-Cなんだから普通に考えれば動くだろ! 常識だ!」と、逆ギレするところまで容易に想像できます。
これ以外にも、複数出力同時使用でUSB充電器の電圧が変化してしまったり、ケーブルのせいで十分な電力が引っ張れないなど、利用時の組み合わせで動かなくなる可能性もあります。
ACアダプターを同梱しなくていいぶん安くできますが、クレーム対応も含めた問題の対策コストを考えると、QCやUSB PDを使うメリットが薄くなってしまいます。もしかすると、ACアダプターを同梱したほうが安くつく可能性すらあるわけです。
とはいえ、これはあくまで製造・販売側視点での話。QCやUSB PDを使いたい側としては、ACアダプターが増えていくのは素直にうれしくないです。9Vだろうが12Vだろうが15Vだろうが20Vだろうが、USB充電器で何とかしたい!
こう考える人がたどり着くもののひとつが、USB充電器用のトリガー基板でしょう。これは、QCやUSB PDに対応したコントローラーが搭載されたもので、任意の電圧を取り出せるという便利アイテム。これを間に入れて使えば、USB充電器を複数電圧対応のACアダプターのように扱えるわけです。
スイッチで電圧を変更できるトリガー基板は便利ですが、これ、動作中でもボタンを押すと電圧が変わります。使用中に間違って触れてしまい、高い電圧が出力されてしまうと、機器を壊してしまう危険が……。また、USB充電器に挿すまで出力電圧がいくつになるか分からないため、電圧を確認してから機器に接続しなければならないという手間もあります。
これを回避するには、電圧が固定されたトリガー基板を使うといいでしょう。トリガー機能を内蔵したUSBケーブルなども登場しているので、電圧を変更する必要がないならそちらの方が便利です。DCプラグ付きのものなら、そのまま機器に挿すこともできます。
使う機器が決まっているならトリガーケーブルが最高ですが、複数の機器で汎用的に使いたいとなると微妙。機器によって電圧やDCプラグの形状が変わってくるからです。
可変であって欲しいけどボタンを押すだけみたいな単純なものではなく、挿した瞬間から出力電圧は固定化されるけど設定は任意に変えられる……みたいなものが欲しいですよね。
ということで探してみると、結構沢山見つかります。ただ、電圧設定が抵抗の付け替えだったり、ハンダで一部ショートさせたりするのは面倒です。
そんなわけで、スイッチの切り替えで設定できる電圧半固定のトリガー基板を3製品ほどAliExpressで購入してみました。多少高くなるもののAmazonでもマケプレに出ているので、そちらで購入するのもアリです。
1.最も小さく出力端子まで搭載している基板
5個入り送料込みで、約700円(購入時)。電圧の設定は中央のDIPスイッチで行ないますが、ON側(上側)にスライドした場合が「0」となるので注意が必要です。説明に「Dial down to 1, and dial up to 0.」って書いてあるので、よく読めという話ですが。
基板の裏側を見ると、コントローラーとしてはCH224Kが採用されていました。使いやすいのか割とよく見かけるもので、IC単体が秋月電子などでも売られています。
基板の配線パターンを確認したかったのですが、コネクター類がジャマだったので外してみました。
スルーホールがサーマル接続(十字)になっており、コネクターをハンダ付けしやすくなっています。ただし、これによって一部GNDのパターンが狭まっているのが気になるところ。とくに、赤丸を付けたDIPスイッチの1番目と2番目のあたりですね。
影響はそこまでないと思いますが、大電力を使う予定で気になる人は、USB Type-Cから出力端子のGNDまでを補強したほうが安心できそうです。
2.見た目にキレイでわかりやすい素直な基板
4個送料込みで、約680円(購入時)。先の基板と比べると約2倍のサイズになっていますが、約30×20mmと十分コンパクトです。DIPスイッチの切り替えで電圧を変更可能で、こちらは裏面に設定一覧がシルク印刷されているという親切設計なのがいいところです。
コントローラーは、同じくCH224K。よく見ると外部レギュレーターが搭載されており、5Vを別途基板上で生成していました。これは分圧してコントローラーの電源として使われているほか、LED、電圧設定ピン用などにも使われています。5V設定時はまともに動作しないので、約3.6Vが出力され、それ以外の電圧では常時約5Vとなっていることが確認できました。
配線パターンを見ると、基板の表はVCC(VBUS)やGNDがほぼなく、部品間の接続がメイン。裏面はどちらのパターンもガッツリ幅広く配線されており、大電力でも安心して使えます。
そうそう、シルク印刷の設定表はスイッチのONが1でOFFが0という、間違いにくいものになっています。この点も分かりやすくていいですね。
出力側はスルーホールがあるだけなので、好みのコネクターを搭載して使うか、直でDCプラグ付きのケーブルを接続するかして使いましょう。
3.型番不明の謎コントローラー搭載基板
3個送料込みで、約570円(購入時)。ちなみに、基板によって購入数が異なるのは、送料が変わらない範囲で複数個買いしているからです。ケチケチ作戦です。
構成部品はそんなに変わらないし、パターン違いかな、くらいの気持ちで購入したのですが、届いた基板をよく見ると、コントローラーの型番が刻印されておらず不明。テスターで簡単に調べてみると、8ピンへの接続抵抗で電圧が変わるタイプのようで、DIPスイッチを切り替えると抵抗値が変化していました。
CH224K以外のコントローラーで10ピンのものを探してみると、FS312やHUSB238というものが見つかりました。どちらも接続する抵抗値で電圧が変わるタイプですが、データシートの抵抗値とテスターで測った抵抗値は全く違う値になっており、このどちらでもないようです。結局、仕様のわからない謎コントローラーということで諦めました。動けばいいんですよ、動けば。
こちらの基板にもレギュレーターが搭載されており、5Vが作られています。どこに使われているのか追ってみると、コントローラーの電源ピン(たぶん)とDIPスイッチに繋がる抵抗です。この抵抗をいくつか通して、コントローラーの8ピンへと入力されるようになっていました。接続する抵抗値ではなく、入力する電圧で制御するタイプかもしれません。何れにせよ、コントローラーが謎なことには変わりませんが。
ちょっと面白かったのは、この5VではLEDを光らせていないこと。LEDは2.2kΩを通してVCCから直に接続されており、出力電圧によって若干明るさが変わるという、便利なんだか便利じゃないんだかよくわからない、微妙な仕様です。
基板の配線パターンは、表面にVCCもGNDも幅広く配線されています。さらに、裏面はほぼ全体がGNDとなっており、大電力での安心感は3基板中一番といってよさそうです。
ちなみにこの裏面の設定表は、ONが「0」となるので注意が必要です。
どれもちゃんと動作するが、強いて言うなら……
探してみるとわかりますが、トリガー基板・ケーブルはかなりの種類があり、どれがいいかは人それぞれ。今回はDIPスイッチで切り替えたい、といった変なこだわりで選びましたが、無理にこれを選ぶ必要はないです。
紹介した3つのトリガー基板でどれがいいかを強いて言うなら、基板のレイアウトがキレイでコントローラーがCH224Kと判明している、2つ目でしょうか。手軽に実験で使うのであれば、コンパクトで最初から端子の付いてる1つ目も捨てがたいですね。
3つ目で気になるのは、コントローラーが謎という点と、GNDが分岐・分散しているとノイズの問題が起こりそうなところ。試した限り動作がおかしいわけではないので、完全に気分の問題です。他の2つと同様、USB PDだけでなくQCにも対応していますから、機能面での見劣りもありません。
結局、どれを選んでも設定した電圧を取り出せるというのは同じ。好きなものを購入しましょう。
なお、もっと信頼性の高い基板が欲しいというのであれば、ストロベリー・リナックスさんの「CH224 USB-PD電源モジュール(5V,9V,12V,15V,20V対応)」をどうぞ。コントローラーがCH224Kというのは同じですが、わかりやすいジャンパーによる設定で、出力端子付き。もちろん、日本国内製造です。