楽天モバイルが悲願のプラチナバンド獲得。乗り越えるべき課題も山積(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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楽天モバイルは、悲願だったプラチナバンドを23日に獲得しました。申請していた特定基地局開設計画が、この日に認定された格好です。

申請は8月29日から9月29日まで受け付けていましたが、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は応募を見送っており、楽天モバイルへの割り当ては確実視されていました。周波数は700MHzで、帯域幅は上り下りそれぞれ3MHz幅。サービス開始は24年中を目指すとしています。

プラチナバンドは、エリアで見劣りする楽天モバイルにとって是が非でもほしい周波数帯でした。飛びやすく、回り込みもしやすい低い周波数帯は、人口カバー率に表れないような場所でも、エリア拡大に役立つからです。

楽天モバイルは、エリア拡大を急いだ結果、4月末時点で98.4%の人口カバー率を達成。年内には、これを99.9%に引き上げる計画を打ち出していました。

一方で、ここまで人口カバー率が伸びても、ビル内や地下などで圏外になるといった声は出ています。楽天モバイルが現在運用している1.7GHz帯は、ある程度広範囲はカバーできるものの、建物の奥などには浸透しづらかったからです。

6月に導入した「Rakuten最強プラン」に合わせ、KDDIとのローミング協定を見直し、東名阪などの都市部でもauの800MHz帯を利用することでこうした弱点を解消する構えでしたが、いつまでも他社のネットワークに頼っているわけにはいきません。基地局投資は必要になるものの、資産は残るため、長期的に見れば自前でのネットワーク構築は欠かせなかったと言えるでしょう。

▲自前の基地局での人口カバー率は、4月時点で98.4%まで拡大した。ただし、エリアの穴も残るため、KDDIのローミングも強化。現在は両ネットワークの合算で人口カバー率99.9%をうたっている

ここまでの経緯を振り返ると、紆余曲折がありました。約1年半前の22年3月に矢澤俊介氏が社長に就任した直後から、同社はプラチナバンド獲得の意向を強く打ち出し、メディアなどでもその主張を展開し始めました。ただ、当時は今回割り当てられた700MHz帯に空きがないとされていたため、楽天モバイルはドコモ、KDDI、ソフトバンクからそれぞれ5MHz、計15MHzを譲り受ける計画を立てます。

22年10月の電波法改正によって、すでに利用者のいる周波数帯に対しての競願申請ができるようになったからです。この場合、新規に申請した事業者の計画が既存キャリアのそれを上回る必要があるものの、後出しジャンケンができることもあり、楽天モバイルは強気の姿勢を崩していませんでした。

▲楽天モバイルが総務省に提出していた資料。3社から5MHz幅ずつ、計15MHzを“奪取”する計画を打ち出していた

一方で、奪われる側になる3社も黙ってはいません。既存のユーザーがいるため、移行にかかる時間や費用を算出。10年程度の期間をかけ、干渉防止のフィルター挿入や電波を増幅するリピーターの交換などを楽天モバイルに求める主張を展開しました。喧々諤々の議論が繰り広げられた結果、期間以外は既存キャリアの主張が半ば却下され、楽天モバイルの完全勝利かと思いきや、我らがドコモ(?)が突如してキラーパスを放ってきました。

それが、今回楽天モバイルに割り当てられることになった700MHz帯です。元々は空きがないことになっていた同周波数帯ですが、ドコモは特定ラジオマイクや高度道路交通システム用途で利用されている700MHzの間に、「ホワイトスペース」があることを発見。干渉防止のために開けていたガードバンドを減らし、ここをLTEなどに利用できる可能性を示唆しました。

▲ドコモが総務省に提出した資料。700MHz帯の空白を見つけ、携帯電話用に利用できるよう提案した

3MHz幅しか利用できないものの、楽天モバイルのユーザー数であれば十分収容可能なことを示す資料も提出するなど、半ば楽天モバイルのために動いているような感さえありました。既存の周波数を奪われるよりマシという判断が働いたのでしょう。ここからは異例のスピードで700MHz帯の利用検討が進んでいき、冒頭のように、8月から申請の受付を開始、晴れて楽天モバイルへの割り当てが決まった格好です。

“つながりやすい電波”で一気にエリア改善というようにとらえられがちな楽天モバイルのプラチナバンドですが、上記のようにガードバンドを削って利用している関係で、そこそこの制約もあります。

干渉対策のための出力制限はその1つ。闇雲に電波を吹きまくるわけにはいかないというわけです。特に端末側からの上りの電波を制御する必要があり、そのためには1つ1つの基地局がカバーする範囲を狭くしなければなりません。この制限のため、少ない基地局で広い範囲をまとめてエリア化することが難しいと言えるでしょう。

▲開設計画の審査基準には、混信対策が多く盛り込まれている。既存の周波数帯に隣接しているため、端末側の出力を上げづらい

それもあってか、楽天モバイルが提出した開設計画書では、700MHz帯の人口カバー率が83.2%と低めに見積もられています。ちなみに、ドコモ、KDDIは800MHz帯単独で99%超、ソフトバンクも900MHz帯で99%超の人口カバー率を達成しており、数値的にはまだまだ開きがあります。この基地局設置ペースをいかに上げていけるかが、楽天モバイルにとっての課題と言えるでしょう。

▲楽天モバイルが提出した開設計画。人口カバー率は低めに見積もられている

また、プラチナバンドとは言え、3MHz幅しかないのも不安が残るところです。この帯域幅は、“狭帯域LTE”などと呼ばれるもの。理論値でも、下り最大30Mbpsにとどまります。電波の飛びやすさを踏まえると、ベストな状態で接続できる端末は限られてくるはず。そのため、スループットはさらに低下することが考えられます。現時点では、他の周波数帯と電波を束ねるキャリアアグリゲーション(CA)も、標準化されていません。

そのため、うまく制御しないと屋内でキャパシティを超えたプラチナバンドをつかみ、パケ詰まりが発生してしまう懸念もあります。ドコかで聞いた話ではありますが、電波は飛び過ぎない制御もなかなか難しいところ。

ユーザー数が500万を超えたばかりの楽天モバイルにとっては杞憂かもしれませんが、局所的に人が集まる都心部などでバランスが崩れる可能性もあります。悲願のプラチナバンドを獲得した楽天モバイルですが、乗り越えるべき課題もまだまだ残っていると言えるでしょう。

▲楽天モバイルが申請していた特定基地局開設計画が23日に認定された。悲願のプラチナバンドをついに獲得し、エリア整備に着手する(写真提供:楽天モバイル)

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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《石野純也》

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