GOOVISのヘッドマウントディスプレイ、GOOVIS G3 Maxのレビューをお伝えします。
GOOVIS G3 Maxは、5K (片目2.5K x2枚)の有機ELディスプレイを採用した映像特化のヘッドマウントディスプレイ。
VRヘッドセットのように見えますが、仮想世界を歩いたり見回すVR機能はなく、2.5Kの画素をすべて仮想スクリーンに詰め込んだ、直球ど真ん中の「プライベートシアター」製品です。
ここ推し!ポイント
・FOV 65度の迫力と2.5K高精細を両立、シアター体験に特化
・一定の近視・遠視ならメガネ要らずの視度調整
・顔に押し付けないヘッドストラップ・90度フリップ式
・USB-CとHDMI対応、3D Blu-rayや120Hz、4Kなど豊富なソース対応
覚悟しとけポイント
・視界を塞ぐため、安全に没入できる環境向け。パススルーなし (90度跳ね上げて前方確認は可)
・ストラップも含めるとやや収まりが悪く、キャリングケースはでかい
・HDR非対応
・外見がサイバーパンク1980
近年はVR / ARの隆盛でマイクロディスプレイ技術や光学系も発展し、「着ければそこが映画館」をうたう製品も増えてきました。
なかでもGOOVIS G3 Maxは、VRだのARだのはどうでもいい、シースルーも要らない、ただ映像を美しい大画面で観たい、その画面でゲームもしたい用途では期待に応える製品です。
元祖「パーソナルシアター」直系デザイン
メガネやゴーグルのように装着して映画館のような体験をうたう製品としては、一方にXREALやVITUREなどシースルー型のARグラス、あるいはサングラス型ディスプレイがあり、もう一方にはMeta Quest 3 のようなVRヘッドセットがあります。
GOOVIS G3 Maxはこのどちらとも違い、VR / AR製品ではなく、装着した状態で外が見えるパススルーにも対応しません。
映像の仕様を比較すれば、サングラス型ディスプレイは多くが片目1920 x 1080フルHD解像度に視野角40~50度程度であるのに対して、GOOVIS G3 Maxは片目2560 x 1440でFOV 65度。
サングラス型ディスプレイは「何m先に何百インチの大画面!」と大画面をアピールするものの、視界を覆うというより窓が浮いた状態でさほどの迫力はないのに対して、GOOVIS G3 Maxは映画館の中央よりも前列寄りに座ったような、ふた周りほど広い感覚です。
「何m先に何百インチ」表現では、公称「20m先の1000インチスクリーン相当」。
こうした製品の広告では「何m先に」が抜けて空虚な「何百インチ!」だけを大きく謳い、雰囲気で凄さを出そうとする例がまかり通っていますが、10インチのiPadでも目と鼻の先にかざせば視界を覆う大スクリーンの視野角になり、何百インチの大画面でも遠く離れれば視界のなかで手元のスマホより狭くなるため、距離が抜けた何インチアピールにはさほど意味がありません。
しかし(対角の)視野角45度と65度の相対的な比較なら、同じ距離から見た45インチTVと65インチTVの差と同じ。
XREALなどのサングラス型ディスプレイを試したことがあるなら、あの仮想ディスプレイが45インチだとした場合の65インチと想像すれば広さが伝わるかもしれません。
何m先に見えるか、は個人の感覚もあり難しいところですが、焦点距離としては少し先、数m以上離れているように見えることと、構造的に周辺視野も覆うため比較するものがないことから、目の前のテレビのような圧迫感はなく、劇場の大スクリーンを見ている錯覚は得やすくなっています。
対角65度は、一般的にいわれる最適な視聴距離 / 視野角よりもやや広くなりますが、音量ボタンの上を長押しする操作で、ディスプレイのうちフルHD相当部分のみを使い画角を抑えるモードもあります。
ある種のゲームなど、迫力よりも視線移動を減らしたい、周辺視野の状況も捉えておきたい場合などに活きる機能です。
ラバー製の柔らかマスク(接顔部)で遮光
サングラス型ディスプレイは前方が見えているシースルー型が特徴のひとつで、明るい場所では映像が見えにくくなるためシールドを装着したり電子調光で光を遮る仕組みですが、完全に塞いだとしても、形状はサングラスなので、当然ながら左右や下から光が入るのは避けられません。
(逆に目線を下にすれば手元のキーボードを操作できたり、飲み物を手に取ったりできる利点にもなりますが)。
対するGOOVIS G3 Max はシースルーなし、カメラを使ったビデオパススルーもなし。さらに柔らかなラバー製のシールドで左右も含め完全に塞ぎ、没入感と黒の深さに全振りする設計です。
装着しているあいだは手元も見えませんが、おでこと後頭部で止めるストラップからディスプレイ部本体が下がる構造で、ストラップを外さず本体を90度跳ね上げられるため、ちょっと用を足す程度ならばストラップの着け直しは不要です。
VRヘッドセットとの違いは高精細
没入感と迫力を求めるなら、Meta Quest 3のようなVR / MRヘッドセットもありますが、そちらとの違いは首を振らず眼の前の映像を見ることに特化した視野角と、画素が詰まった高精細・高画質。
VRヘッドセットはものにより対角で100度程度の視野角があり、文字どおり視野を覆うことで没入感を得られますが、解像度で片目4Kに達するものはまだ少なく、Quest 3を例にとれば片目2064 x 2208ピクセルを横110度 x 縦96度に引き伸ばした状態です。
このためVR空間で映画館を再現しても、目の前の四角いスクリーン部分の画素はディスプレイの一部でしかなく、画素も粗くなります。
GOOVIS G3 Max の2560 x 1440は、画素数でいえばQuest 3 の2064 x 2208よりもやや少ないものの、眼の前で一望できる広さの FOV 65度に詰め込んだ点で、画面の精細さでは一般的なVRヘッドセットに勝る仕様です。
(一方で、視野角としてはVRヘッドセットのほうが広いため、映画館では「やや前寄り」どころか最前列を選ぶ、視線だけでなく頭も大きく動かして見るのが好き、字幕を読むあいだは人物の表情から目を離しても良いなど、高精細より迫力重視の場合はVRヘッドセットのほうが向いています。)
ザ・ヘッドマウントなスタイル
ハードウェアとしては実にストレートな、眼の前に装着した箱を覗き込む「ザ・ヘッドマウントディスプレイ」型。VRヘッドセットや、さらにご先祖のソニー HMZシリーズやグラストロンをそのまま継承したようなスタイルです。
装着方法としては、Quest 2や3のようにストラップで直接顔に押し付けるタイプではなく、PS VRやQuest Proのようにおでこと後頭部をストラップで留め、ディスプレイ部を吊り下げるタイプ。
薄いラバー製のマスク(シールド)は顔に触れますが、強く押し付けた跡が残ることはありません。
本体が目の前に突き出るスタイルもあってかなりゴツく物々しく見えますが、本体重量はマスク込みの実測で340g程度と軽量。
ヘッドストラップを含めても実測460g前後であること、顔でなく額の広い面で押さえる形式もあり、比較的軽い装着感です。重心的にはフロントヘビーですが、動画鑑賞用で頭を動かさないため影響は軽減できています。
(高級感をアピールしたいのかストラップも本体もシルバーメタリックな仕上げですが、外装のほとんどは軽い樹脂素材です)
密閉するヘッドマウントディスプレイにつきものの蒸れや曇りについては、ディスプレイ冷却ファンのエアフローが目の前から外側に抜ける構造で軽減。
試したのは室温が低い時期でしたが、額に触れるストラップや、ラバーのマスクが直接触れる部分については、室温によっては汗がつきそうです。
本体で特筆すべきは、オンメガネの必要がない視度調節。本体左右の大きく分かりやすいダイヤルを回すことで、遠視から近視まで2D~ -7Dの範囲なら、メガネなしでも細部までパキッと見られるようになります。
見え方の調整では、瞳孔間距離も58mmから74mmの範囲で、左右独立して物理的にレンズをスライドさせて調整可能です。ただし、PS VR2のようにディスプレイ全体を前後にスライド移動する機構は不採用。
もうひとつ好印象なのは、左右の視度調整ダイヤルのほかにも、音量や輝度調整、3Dモードオンオフのボタンが実に分かりやすいこと。
これは本体が大きくボタンやダイヤルを置く場所があること、目を塞ぐため触感で分かる必要があるためと思われますが、「マルチファンクションボタンを長押しして離すタイミングで機能が切り替わります」式のややこしさがないストレスフリー設計は評価できます。
サウンドについては、ヘッドセット本体にスピーカーを備えるものの、映像の迫力には明らかに負けており、手軽に聴ければ良いコンテンツ向き。
一応、物理的なスピーカー配置もあり音が前方から届く感覚はありますが、スクリーンからというより顔の前で鳴っている感覚は否めませんでした。
視覚では映画館の錯覚が得られても、音声では真後ろや真上から音が聞こえる感覚、座席が震える重低音はさすがにありません。
3.5mmイヤホンジャックは備えるため有線のイヤホンを使うか、スマホなどと接続する場合は音声の出力先を空間オーディオ対応ヘッドホン等にしたほうが総合的には没入感が得られます。
Blu-rayの3D映画を見る際などは、各自のセットアップに応じてデコーダを通したイヤホンあるいはスピーカーが良さそうです。
映像はヘッドマウントディスプレイで、音は外部のサウンドバーやサブウーファーを使って聴いても負けない映像品質です。
フルHD 120Hz入力やサイドバイサイド3D対応。3D Blu-rayも高画質
入力は本体のみでUSB-C(DP Alt Mode, DP 1.4)。付属のアダプタ経由でHDMI。多くのAndroidスマートフォンやPC、Mac、USB-CのiPad、iPhone 15以降なら直結でそのまま使えます。
2.5K、 2560 x 1440はPCモニタでよくある解像度。映像ソースとしてはフルHDから4Kに飛んだため半端な数字のようではありますが、画素数としてはフルHD (約207万ピクセル)の1.8倍、368万画素あり、精細感は歴然と違います。
ネイティブ解像度は2.5Kながら、入力としては4K 60Hzに対応しダウンサンプル表示が可能です。
柔軟に出力解像度が選べるPCはもちろん、PS5 / Xbox Series X|Sには1440p で出力する設定もあります。
このほか、映画コンテンツ向きの24Hz、現行世代の家庭用ゲーム機等が対応している120Hzの入力にも対応 (ただしフルHDまで)。表示はフルHD引き伸ばしまたは2560 x 1440 の60Hz / 120Hz。遅延も少なく、自由な姿勢でゲームを楽しむ環境としても優秀です。
オプションでシンプルなメディアプレーヤも。リモコン操作が良好
オプションのD4 Media Player はAndroid 11ベースの単体プレーヤーとして使える周辺機器。
シンプルなリモコンも付属しており、タッチ画面のスマホなど、視界を覆うと操作が難しい機器よりも快適に、手元だけで楽に操作できます。
D4 Media Player (と合体するPowerBank Base)は8000mAhのバッテリーを内蔵しており、Media Playerを使う場合、電源を供給できないHDMI機器と接続する場合も「映画約三本分」は外部電源なしで視聴できます。
このほか、今回は試用していませんが、ヘッドストラップのかわりにアームで支える「ハンズフリーアーム」もオプションで用意。寝転がった状態など、頻繁に姿勢を変えない場合は、アームで重量ゼロ状態もありかもしれません。
(やや蛇足ながら、ヘッドストラップは分離できるため、仰向けで横になった状態ならアームなしでも顔の上に本体を載せたり、軽く手を添えて押さえた状態で見られます。)
まとめ
全体にいかにもスパルタンな、外見には構わず映像を追求したスタイル?はおそらく好みが分かれるところ。独特のヘッドストラップや前方に突き出た本体、シルバーの仕上げから、装着すると前世紀のサイバーパンクコスプレのようになります。
とはいえ、基本的には室内でプライベートな状況で使うものであり、装着している姿は本人には見えません。
映像については、広視野角・高精細・高コントラストは絶対正義。HDRに対応しないのは残念なところですが、信号として「HDR対応」でもパネル自体の性能が追いついていないモニタや、明るい環境で見るよりも、ほぼ完全に遮光した状態で有機ELディスプレイを見たほうがよほど高コントラストで鮮やかという話もあります (だからこそHDR対応してほしかった……とループ)。
意外なほど作りが丁寧で頑丈なキャリングケースも付属し、長距離移動などで安全な状況ならば移動中が映画館になるすばらしい製品である一方、本体とヘッドストラップをまとめてコンパクトに持ち歩くのは難しく、小さなかばんに忍ばせて、ちょっとしたスキマ時間に使うには向きません。
広さと高精細はPC作業向けのディスプレイとしても実に快適。ながら、周囲が見えないため、キーボードやポインティングデバイスを確認せず使うことになります。
(想定されていない使い方としては、マスクを外すことで、遮光を犠牲にある程度は視界の周囲が確認できないこともありません。ディスプレイ部を前後スライドできないためフィットが難しく、開口部も狭く、なにか工夫や無理やり適応の必要がありそうでした)
最近流行りのサングラス型ディスプレイはメガネそのもののサイズで簡単に持ち運べること、シースルーで周囲を確認できる点が魅力ですが、基本的には自宅でプライベートなシアターとして使いたい、映像視聴やゲームが主である場合、迫力と精細感では確実にGOOVIS G3 Maxのほうが優秀。
「メガネ」でもVRでもなく、ピンポイントに映像視聴用のヘッドマウントディスプレイを探していた場合には有力な選択肢になる製品です。
GOOVIS G3 Maxは、現在 Makuake で「応援購入」キャンペーン中。
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