Steamが生成AI使用ゲーム全面禁止から原則受け入れに転換。理由と影響をゲーム開発者目線で考える

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kogu

ゲームとWebのフリーランス開発者。3DCGからゲーム開発の世界に入り20年。今は生成AIの変化を追いかけて日々実験しています。

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PC向けゲーム配信プラットフォーム最大手のSteamは、AIコンテンツについての新たな方針を発表しました。生成AIを用いて作られた大半のゲームを受け入れるという大きな変更です。

Steamは昨年からAIで生成したコンテンツを含むゲームの配信を拒否しており、ゲーム開発者の生成AI利用に大きな影響を与えていました。


しかし今回の発表では、"AI技術を使用するゲームの大半がリリース可能になります。"という、生成AIの利用自体は拒絶しない方針が示されました。

新しい方針では次の変更が案内されています。

まず開発者は配信するゲームに添えて提出するコンテンツの情報として、生成AIの利用方法の開示を求められます。情報は審査に用いられるだけでなく、ゲームを購入するユーザーにもその多くが開示されます。

Steamではゲームにおける生成AIの利用を「事前生成」「ライブ生成」に分類しており、開発者はそれぞれの基準に沿った説明が必要です。

  • 事前生成はゲームの開発時に生成されたコンテンツが対象。画像や音声、テキストなどあらゆる表現が対象で、合法性や権利侵害の無いことを保証しなければなりません。

  • ライブ生成はゲームの実行時に生成されるコンテンツが対象です。これは事前生成と同等の条件に加え、実行時に問題あるコンテンツが生成されないようどのように対策しているか示す必要があります。さらにライブ生成については、プレイ時に問題を確認した場合にスムーズに報告できる新たなシステムの提供も示されています。

なお、ライブ生成かつ成人指定のコンテンツだけは"唯一の例外"として、引き続き配信できません。

こうした方針とともに、今後も検討を続け必要に応じて見直しが行われる可能性も告げられています。

新たな方針の背景と影響を考える

PCゲーム市場で圧倒的なシェアのSteamの動向はゲーム業界に強い影響を与えます。ゲームへの生成AI活用を模索する開発者として、今回の変更の背景を考えてみます。

競合の動向

PCゲーム配信プラットフォームとして直接競合するEpic Games Storeは、生成AIによるコンテンツを拒否しておらず、CEOのTim SweeneyもAIの活用に積極的な姿勢を見せています。ゲームコンソールやモバイルなどで競合する他のプラットフォームでも、生成AIコンテンツを理由に配信を拒否する方針はとっていません。

こうした状況でゲーム制作に生成AIの活用が大きく進んだ場合、Steamだけが配信先から除外されてしまうリスクを抱えてしまいます。

制作ツールの動向

ゲームの制作には多数のツールを用い、その主要なツールへ生成AIの組み込みが進んでいます。

Adobeは代表的で、商業規模であれば画像の編集にPhotoshopを使わない方が珍しいでしょう。PhotoshopをはじめとしたAdobeのツールにはすでに生成AI機能が標準搭載され、意識せず使うユーザーも増えていきます。



ゲームエンジンのUnityも、独自に生成AIを使ったアセット生成や開発サポートのサービスを開始しています。

部分的にでも生成AI機能を搭載した制作ツールが増えており、テキストやモーションのように利用が目立ちにくい用途にも広がっています。

生成AIをひとまとめに拒否すると、そういったツールの利用者を丸ごと拒否しかねません。

隠せてしまう利用

ゲームのコンテンツに生成AIを利用しているか、開発者が正直に申告するとは限りません。確実に判定する仕組みは今のところ存在せず、開発者を信頼するしかありません。

生成AIを利用していると配信を拒否される状況では、見破れないかもしれない虚偽の申告が大きな不公平を生みます。受け入れる前提で申告を義務付け審査する方が、適切に判断できると考えてもおかしくないでしょう。

より広いリスクと審査

生成AIのリスクのひとつに学習に用いるデータの権利処理があります。New York TimesがOpenAIとMicrosoftを告訴するなど進行中の大きな話題もあります。Valve自身、昨年の拒否時には理由としてデータセットの権利に言及していました。


またアーティストの拒否感、ディープフェイクや濫造など様々な社会的リスクもあります。そのため個人的にはこうした状況の中、Steamでの配信を認めるのは少なくとも重要な判例や行政の決定が出てからだろうと考えていました。

しかしこのタイミングで原則として受け入れる発表した以上、適切な審査と提供が可能だと判断したことになります。Steamほど巨大なビジネスが行った判断を理解する上で、今後審査されて配信に至るゲームの事例に注目しています。

今後の予想

2023年後半、生成AIについて話した小規模なゲーム開発者から「でもSteamに出せないんでしょ?」という声を何度も聞きました。PCゲームでSteamが使えないのはそれぐらい厳しい条件です。しかし、一度は生成AIの利用に否定的だった分、今回の方針転換によって「Steamでも認めてるのだから」に変わるかもしれません。

ただ、逆に生成AIによるゲームの粗製濫造が起きるかもしれません。画像などを入れ替えただけの作品を量産したり、薄い内容で埋め尽くされたゲームを乱発したりなど、生成AIの物量は手抜きの大量生産にも使えます。また、生成AIは技術の進展が早く、生成できる範囲が広がっていけば、いずれはゲームそのものの生成も可能になっていくでしょう。そうした粗悪品がより氾濫する方向に向かえば、方針も再度見直されるのかもしれません。

そのほかSteamのユーザーレビューも生成AI利用への否定的な意見の影響を受けそうです。生成AIを使うことそのものはユーザーの良い評価に直接繋がるものではないため、悪い評価だけが上乗せされることが考えられます。生成AIを使ったゲームが十分に多くなるまで、強い否定がスコアを落とす一因となりえるでしょう。

いずれにせよPCゲームの配信プラットフォーム最大手Steamが生成AIを受け入れる方針に変わったことで、ゲーム開発での生成AIの採用を手控える要因がひとつ減りました。特にインディー規模のスタジオや個人の開発者では、より積極的に利用の模索が始まるでしょう。

Steamが今後どのように生成AIを審査し、開示された情報をユーザーがどう判断するのか注目しています。


《kogu》
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ゲームとWebのフリーランス開発者。3DCGからゲーム開発の世界に入り20年。今は生成AIの変化を追いかけて日々実験しています。

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