NASAはトランジット系外惑星探索衛星(TESS)の観測データから、短時間のマイクロレンズ現象を確認しました。
これはどの恒星系にも属しない自由浮遊惑星(ローグ・プラネット)の発見につながるかもしれません。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者であるミシェル・クニモト氏は、浮遊惑星が生み出す重力によって発生する、背後の天体を明るくする作用すなわち重力マイクロレンズ効果と思われる現象を、TESSの観測データから発見しました。
浮遊惑星の可能性があるとされる天体TIC-107150013は、太陽系から1万400年ほど離れた位置にあり、TESSの観測データの中には107分間におよぶマイクロレンズ現象のようすが記録されていたとのことです。
もしこの天体が太陽系から8500光年以内の距離にある場合、その質量は地球の10倍未満だと推測されます。またもし3500光年以内にあるのだとすれば、ほぼ地球と同じ質量と考えられます。
クニモト氏は「現時点ではこれが惑星かどうかを確認することはできない」と述べています。TESSはもともと、その名前が示すとおり、トランジット法と呼ばれる手法により太陽系以外の、恒星を周回する惑星を発見するために開発されました。トランジット法では、観測点から恒星を観測し続け、その前を惑星が横切った際に発生する光の弱まり(減光)を検出することで、そこに惑星が存在すること確認する方法です。
一方、浮遊惑星の場合はそもそも恒星を周回する軌道から外れた「はぐれ惑星」であるため、通常のトランジット法では発見することができません。そのため、研究者らは星や銀河からの光が観測点に届くまでの間に存在する別の天体の重力によって歪み明るさが増したように見える、「重力レンズ」効果を利用しました。
ただ、浮遊惑星は天体としてはそれほど強大な重力を持たないため、発生する重力レンズ効果も微弱なものになります。そのため、惑星による重力レンズ効果は「重力マイクロレンズ効果」と呼ばれます。
TESSは2018年以降、6000個あまりの太陽系外惑星候補を発見してきました(うち4個は系外惑星として確認)。一方で、自由浮遊惑星は今回が初めてのケースになるかもしれません。それはもちろん、TESSがトランジット法により恒星の光量の変化を検出するための観測機だから。つまり重力マイクロレンズ効果を探すためには使われていなかったということです。
とはいえ、もともと観測対象のわずかな光の変化を検出する能力を持っていることから、減光ではなく、増光効果を持つ重力マイクロレンズの検出にもその観測データは有効だとクニモト氏は述べています。
なお、今回発表された自由浮遊惑星も、現在はあくまで「候補」の段階です。他の多くの太陽系外惑星候補と同様、今後きちんと検証され、確認される必要があります。
ただ、恒星を周回する惑星は一定の間隔で同じ現象を繰り返すのに対し、特定の軌道を持たない自由浮遊惑星は、検出した重力マイクロレンズ効果が再現されないため、検証も困難です。研究者はさらにTESSのデータを調査し、追跡観測ができれば、それが本当に自由浮遊惑星か確認できるだろうとしました。
今回の研究に関する論文はArXivに公開され、王立天文学会月報のための査読待ちとなっています。