米マイクロソフト(以下「MS」)は、ゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードの買収が実現した暁には、超人気IP「Call of Duty」シリーズをPlayStation向けに10年間は供給し続けることをソニーに提案しました。
米The New York Times(以下「NYT」)によると、ソニーはこの件につきコメントを控えています。
これは以前、MSがソニーに提案した「現行の契約が終わった後、3年間」という条件を大きく上回るものです。
なぜMSが異例の契約を持ちかけたかといえば、アクティビジョン買収を完了するには世界各国、主に米国や英国、EU(欧州)の規制当局を説得する必要があるため。
人気シリーズが競争相手の傘下となってしまうソニーは各国の政府に対し、マイクロソフトによる買収はゲーマーから選択肢を奪い消費者の不利益となるとして、認可を与えないよう働きかけるロビイングを続けてきました。
英国の規制当局はCoDを(家庭用ゲーム機でXboxに)独占する可能性が、MSにクラウドゲーミング業界で「比類ない優位性」を持たせてしまうとの懸念を表明。また米連邦取引委員会(FTC)も、法的な異議を申し立てる兆しがあると報じられていました。
また各国の規制当局の立場としては、CoDシリーズがプレイステーションで遊べるか否かよりも、マイクロソフトを始めとする巨大テック企業を政府としてどう制御してゆくか、資本の原理だけでは自由にならない許認可の機会に厳しい目を光らせたい思惑もあります。
ただしゲーム業界を見渡せば、表立ってMSのアクティビジョン買収に反対しているのはソニーだけ。大手ゲームパブリッシャーTake-TwoのCEOも特に懸念はないとコメントしているほどでした。つまり、ソニーの反対が買収を成立させる上で大きな障害となっているわけです。
主な議論の焦点となっているのが、家庭用ゲーム機市場においてCoDが各陣営のパワーバランスに大きな影響をおよぼすかどうか、という点です。
MSはニュージーランドの商業委員会に同IPがライバルとの競争を妨げるキラータイトルではないと言い、かたやソニーはブラジル政府に家庭用ゲーム機の販売企業にとって「必須」だと主張。
要するに影響がありそうなのはゲーム機の製造・販売やクラウドゲーミング事業を営むプラットフォーム企業だけであり、ソニーとMSの正面対決となるのは(他のゲームソフト専業企業が関心を持たないのも)必然と言えます。
またPlayStation事業トップのジム・ライアンCEOもNYTへの声明で、MSは「業界を支配してきた長い歴史を持つハイテク企業」であり「この取引が進行すれば、現在ゲーマーが持つ選択肢が消えてなくなる可能性が高い」と発言。どれほどソニーが強硬に反対しているかが見てとれます。
かたやXbox事業トップのフィル・スペンサー氏も「PlayStationある限り、CoDの供給を続ける」と発言。同時に、「未来永劫」供給し続けるという条件では契約にできないのだと付け添えていました。
それに続き、MSが打ち出した新たな一手が「CoDをPlayStationに10年提供し続ける」契約をソニーに提案、というわけです。さすがに永遠には約束できないし現実性もないので、より真実味のある提案をしてソニーの歩み寄りを期待しているとも推測されます。
シリーズ最新作の『 Call of Duty: Modern Warfare 2』は発売からわずか1週間で、歴代PlayStation版では史上最大の販売本数を達成しています 。MSとしても、Xbox事業を後押しするためとしても、これほどのドル箱を捨て去るのは割に合わないとソロバンを弾いているのかもしれません。