実は現行品。音楽用MDをデータ用に拡張した「MD DATA」(140MB、1995年頃~):ロストメモリーズ File018

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宮里圭介

宮里圭介

ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

特集

[名称] MD DATA
(参考製品名 「MMD-140」他)
[種類] 光磁気ディスク
[記録方法] 磁界変調ダイレクトオーバーライト方式、レーザー光(780nm)、CLV
[メディアサイズ] 72×68×5mm
[記録部サイズ] 直径約64mm
[容量] 140MB
[登場年] 1995年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

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「MD DATA」は、ソニーが開発した容量140MBの光磁気ディスク。音楽用のMiniDisc(ミニディスク、MD)をベースに、データ保存可能な規格として誕生しました。

光磁気ディスクといえば、1991年に登場した3.5インチMOが有名です。当時は、HDDの大容量化・低価格化が進み、100MBクラスのHDDが10万円前後にまで下落してきた頃。一般ユーザーにもHDDが普及し、ソフトやデータが巨大化してきた時期でもあります。1993年になるとWindows 3.1 日本語版が登場し、HDDは当たり前のものとなり、扱うデータはさらに大きくなっていきました。

こうなると困るのが、データの受け渡しです。数MBくらいであれば分割し、フロッピーディスクで渡すといったこともできます。しかし、5枚、10枚と数が増えると、時間も手間もかかってしまい、現実的ではありません。その点3.5インチMOは、128MBとフロッピーディスクの約100倍。カートリッジのサイズも小さく、使い勝手が良かったことから、この時代のリムーバブルメディアとして多くの人に利用されました。


これとほぼ同時期となる1992年に登場したのが、音楽用MDです。MOと同じ光磁気ディスクながら、音楽用に特化。カセットテープのように好きな曲を録音できるのに、CDのように素早く曲選択ができるとあって、人気を集めました。また、カートリッジがコンパクトで、プレーヤーを小型化できることから、ミニコンポや携帯プレーヤー、車載プレーヤーと、多くの機器で採用されるようになりました。

▲音楽用MDは多数のメーカーから発売されました

3.5インチMOとの違いは、サイズだけではありません。

変復調方式の変更による最短ビット長の短縮、CAV(回転数一定)からCLV(線速度一定)への変更による記録密度の向上といった改良が施されており、小さくなっても容量は増加。また、磁界変調ダイレクトオーバーライト方式の採用による書き換え速度の向上など、MOでの不満点も改善されていました。

これだけのものを音楽専用だけにしておくのはもったいない……と思うのは当然です。音楽用が先行しましたが、もちろんデータ保存用の規格も考えられていました。それが、「MD DATA」です。1993年7月に規格化され、1994年には画像を扱うPicture MDの仕様を追加。1995年に発売されました。

ということで、このMD DATAのカートリッジを見ていきましょう。

音楽用MDとはシャッターに違いがある

MD DATAは音楽用MDをベースに作られているだけあって、その違いはわずか。表面からわかるのは、音楽用MDは左上、右上の両角が丸くなっているのに対し、MD DATAは左上が角張り、右上が斜めに切られているといったくらいです。

▲左がMD DATAで、右が音楽用MD。上辺左右の角に違いがあります

裏面も基本同じで、位置決めや検出用だと思われる穴がいくつかあるのは共通です。大きく違うのは、アクセスウインドウを保護するシャッター。音楽用はあくまでアクセスウィンドウだけを覆っているのに対し、MD DATAでは中央のクランピングプレートまで覆える大きなサイズになっています。

▲中央のクランピングプレートまで覆うことで、ゴミの侵入を防ぎます

この中央まで覆うシャッターというのは、3.5インチMO譲りの部分。信頼性が重要なデータ用ですから、少しでもゴミやホコリの侵入を防ぎたかったのでしょう。

ちなみに中央のクランピングプレートは円形皿状のものとなっており、これを磁石でチャックして回転させるという仕組み。樹脂素材で挟まれているだけで接着はされておらず、わずかながら動きます。どこかで見た方式だなと思ったら、PSPで採用されたUMDとほぼ同じです。なるほど、UMDへと継承されていたわけですね。


シャッターは、バネ状のツメで引っ掛けて止めているだけ。このツメを押し下げスライドすれば、簡単に開きます。シャッターにバネは入っていないため、自動で閉まることはありません。

▲ツメの仕組みは、透明な音楽用MDで見るとよくわかります

光磁気ディスクへのアクセスは、データの読み取りがレーザー照射のみ、書き込みがレーザー照射と磁界を加えることで行なっています。

簡単に原理を説明すると、まず、データはディスクに磁化方向として記録されています。ここにレーザーを照射すると、磁化の方向によって反射光の偏光角が変化(カー効果)。つまり、この偏光角を検出することで、データが読み取れるわけです。

書き込む場合もレーザーを照射しますが、ここでのレーザーの役割はディスクを加熱すること。この加熱によってキュリー温度を超えると保磁力が失われ、冷却時に周囲の磁界の影響を受けることになります。つまり、冷却時の磁界の向きで、任意の磁化方向を記録できるわけです。

▲レーザーが照射されるディスクの裏面。若干黒っぽいです
▲磁界用のヘッドを近づけるのは表面。反射層があるのか明るめ

3.5インチMOでは、まず磁界を加えながら加熱して、書き換える範囲全体の磁化方向をそろえます(消去)。次に磁界を反転させ、磁化方向を変えたい部分だけを加熱(書き込み)。最後にベリファイチェックする(確認)、という3つのステップからなる光変調方式を採用していました。

これに対して音楽MD/MD DATAは、磁界変調ダイレクトオーバーライト方式を採用。この方式は、磁界を細かくコントロールすることで、書き換えたい場所だけを任意の磁化方向にできるのが特徴です。つまり、消去のステップが必要ないぶん早く書き終わるわけです。

3.5インチMOでは、書き換え速度の遅さを指摘されることが多かっただけに、オーバーライト方式の採用はこだわった部分だと考えられます。

中のディスクを見比べているときに気づいたのですが、音楽用MDには「RECORDABLE MD」、MD DATAには「REWRITABLE MD」の文字が最内周にありますね。ディスクの物理部分は共通だと思っていたので、これにはちょっと驚きました。

▲左がMD DATAで、右が音楽MD。文字が違います

ちなみに、手持ちで確認したところ、ソニー製以外の音楽用MDにはこの文字はないようです。ソニーのコダワリなんでしょうか。

ライトプロテクトスイッチは、スライドで切り替えるタイプ。裏面から見てオレンジ色が見える場合は穴が閉まっており、書き込み可能な状態です。これをスライドすると穴が開き、書き込み禁止となるわけです。

▲オレンジ色がライトプロテクトのスイッチ

ここでよく見て欲しいのが、そのすぐ隣にも穴が開いていることと、さらに続いて2つ「○」のマークがあること。この4つの穴(2つはマークだけで塞がれていますが)、どこかで見たことあるなと思ったら、5.25インチの光ディスクカートリッジでした。


もちろん穴の意味合いは異なりますが、カートリッジ識別用の仕組みとして面影が残っているのを見つけると、思わずニヤリとしますね。

ちなみに4つの穴の意味は、正確なところはわかりません。実物を見て確認できた範囲で推測すると、一番下が「書き込み可/不可」。下から2番目は、「書き換え可能(RAM)/読み取りのみ(ROM)」で、MDアルバムやレンズクリーナーなど、リードオンリーとなっているカートリッジでは穴が塞がっていました。

ここまではMD登場時に決まっていたもので、残り2つは予備だったと考えられます。なぜ予備だと考えたかといえば、後に登場した第2世代の「MD DATA2」で、3番目の穴が開いていたから。こういった新しい規格用に、残してあったのだと思います。

この方向で考えると、一番上は「Hi-MD」となりそうですが、実際は違います。この穴は、最後まで予備のままで終わった可能性が高いです。

なお、後継となる「MD DATA2」と「Hi-MD」については、また別の機会に紹介します。

遅すぎる速度とドライブの価格がネック

音楽用MDはカセットテープの代替となるよう考えられた、低価格なメディアです。そのため仕様を詳しく見てみると、意外と既存技術の組み合わせになっていることが分かります。

とくに光学系はその傾向が強く、レーザー光は780nm、トラックピッチは1.6μm、ディスクの厚みは1.2mmと、このあたりはすべてCDと同じ。これは製造を既存技術の延長で行えるようにするためで、多くのメーカーが参入できたのも、こういった配慮があったからでしょう。

MD DATAは、この低価格な音楽用MDの技術、製造ラインをそのまま活用できるデータ用のメディアとして誕生したため、音楽CDに対するCD-ROMのような位置付けといえます。

ウリとなるのは、小型、省電力、低価格という部分。速度面は追求しておらず、それはランダムアクセスに弱いことや、データ転送レートが150KB/sしかないという点にも表れています。とはいえ、等速CD-ROMと同じ転送レートっていうのは、ちょっと割り切り過ぎな気がしますが……。

MD DATAがユニークな点は、OSがもつ既存のファイルシステムではなく、独自のMD DATA用ファイルシステムを採用したこと。当時は、機器やOSごとに異なるファイルシステムが採用されていることが多く、PC間でのデータ移動で困ることが多かった時代です。同じ2HDフロッピーディスクでもフォーマットが違えば読むことができず、PC-98とMacintosh間でのデータ移動で苦労した思い出がある人も多いでしょう。MD DATAは専用のフォーマットで統一されているため、こういった機器の違いを気にすることなく使えるのがメリットでした。

また、PC以外での利用も考えられていたのが面白いところです。とくに音楽系との親和性が高く、2チャンネル(ステレオ)だけでなく、4チャンネル、8チャンネルの録音が可能。また、ATRAC2もサポートしており、さらに圧縮率の高い長時間録音ができるようになっていました。こういった音楽系の採用では、ヤマハのマルチトラックMDレコーダー、「MD4」や「MD8」などがその代表です。

速度がそこまで必要なく、低価格な大容量メディアが欲しいという用途でいえば、デジカメを代表とする静止画像機器での利用があります。PCではなく専用機での利用も考えられていたため、ピクチャーMDという規格を作成し、ディレクトリー構造や写真解像度、圧縮方式などが規定されていました。この規格に準拠した機器間であれば、相互に静止画像を読み書きできるというのが強みです。スキャナーやフィルムスキャナーを使ったデータ化専用機や、ドライブを搭載したプリンターでの直接出力といったことも可能となります。

実際に製品化されたものは、デジカメであればシャープの「MD-PS1」、ソニーの「DSC-MD1」あたり。また、ピクチャーMDではないようですが、画像を扱う機器として、書類のデータ化が行える「DATA EATA」シリーズがソニーから発売されました。

▲書類のデータ化に使えた初代「DATA EATA」(PDF-5)

イロイロな用途が考えられていたMD DATAですが、PC用としてはどうだったかというと……正直微妙。

まずドライブの「MDH-10」が、定価6万4800円とそこそこ高価だったこと。似た金額を出すなら、より高速で利用者も多い3.5インチMOを買う方が絶対に便利です。また、独自のファイルシステムを採用しているため、ドライバーのインストールが必須だという不便さもありました。

これ以外にも、MDなのにPCから音楽の録音や再生ができないとか、音楽用MDとMD DATAを取り違えないよう明確に分けたところ、同じMDなのに異なる2種類があることが逆に混乱する原因になったりしたのも、微妙と感じてしまう部分です。

また、登場時期も微妙。ライバルとなる3.5インチMOは230MBに容量アップ&高速化していましたし、低価格なZipも登場していました。こうなると、性能面でも価格面でも、優位性がなくなります。

狙いは良かったものの、割り切り過ぎた速度性能、ドライブ価格の高さから、PCではほとんど利用されることはなく、一部の専用機器で使われるだけになりました。

ちなみに、音楽用MDは多くのメーカーから多彩な製品が登場しているのに対し、ほぼ同じものとなるはずのMD DATAは、ソニーの「MMD-140」「MMD-140A」「MMD-140B」、シャープの「AD-DR140」、TDKの「MD-D140N」のみ。ただし、シャープの製品はMMD-140、TDKの製品はMMD-140Aとソックリで、OEM品だと推測されます。つまり、実質的にはソニーの3製品しかありませんでした。

▲左から順にMMD-140、MMD-140A、MMD-140B

あまり使われることのなかったMD DATAですが、実は現行品です。何を言ってるんだ、と思うかもしれませんが、最も新しいMMD-140Bが発売されたのは2016年10月。シャッターが音楽用MDのように短くなってはいるものの、販売は今も継続されています。ただ、ドライブはすでに販売終了となっており、いまだにメディアが販売されている理由はわかりません。

▲シャッターが短くなっているMMD-140Bは、ちょっと寂しさが

さすがに音楽用MDとは違って店頭での購入は難しいですが、通販であれば購入可能。気になる人は、ソニーストアやヨドバシ.comあたりをチェックしてみてください。

参考:

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ソニー 記録用MDデータ 140MB MMD-140B
¥1,340
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《宮里圭介》
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