中国の研究グループが、「AIを用いて自動化したたCPU設計」(Pushing the Limits of Machine Design: Automated CPU Design with AI)と題した論文を発表しました。この論文では、わずか5時間足らずで産業グレードのRISC-V CPUを設計できたと報告しています。
この実験は、機械が人間と同じようにCPUチップの設計ができるのかを検証する目的で行われました。初期の実験ではわりと単純で小規模なチップを作らせていたものの、新しい実験では、AIによる設計の限界を調べるために、RISC-V CPUを自動的に設計させようとしました。
研究者らはモデルとする一連のCPUの信号入出力を機械学習させ、その入出力からBinary Speculation Diagram(BSD)、モンテカルロ法による展開とブール関数の原理を用いて複雑な論理回路を自動設計させるようにしました。その結果、わずか5時間足らずで、しかも「外部入出力観測のみから」まったく新しい400万個の論理ゲートをそなえたRISC-V CPUの設計を生成。
この設計は実際に65nmプロセスで製造され、最大300MHzで動作しました。そして、このCPUを用いてLinux OSおよびベンチマークソフトのSPECint2000を実行して行った検証では、インテルのi486SXと同等のスコアを記録しています。
人間の手によるCPUチップの設計作業には莫大な時間が必要であり、それを短時間で完了させられるAIの能力には驚くほかありません。一方で、できあがったCPUの処理能力がi486SXという、Windows 95時代のスタンダードなCPUと同等だったという点に拍子抜けしたという人もいそうです。
それでも、AIによってまったく新しいRISC-V CPUを構築できるという実績は、学術的興味にとどまらず、将来のチップ設計のための新しい方法としての活用といったアイデアを提供するものと言えそうです。このような技術がさらに発展すれば、既存の半導体産業における設計や最適化のサイクルを大幅に短縮できることはもちろん、AIによって従来よりももっと優れた性能を持ち、高性能なチップを設計する自己進化型マシンの基礎を形成できる可能性も期待できます。
特に高性能かつ低消費電力なチップは、クラウドコンピューティングからIoT、ロボット開発、自動運転やロボット化された航空機など様々な分野に求められています。AIによるチップ設計がこれらのニーズを満たし、さまざまなシナリオに応じて最適化および調整されたCPUを、短期間で開発することを可能にするかもしれません。
ちなみに、プロセッサの設計をAIで加速する試みは、この研究が最初というわけではありません。今年3月には、NVIDIAがチップ設計の最適化、特にフロアプランニング(トランジスタ素子の配置計画)において、AIを活用する「AutoDMP」技術を発表しています。