Googleは、同社自身が手がけるスマホの最新モデル「Pixel 8/8 Pro」を発表しました。
チップセットに最新の「Tensor G3」を搭載し、その上で動くAI関連機能に磨きをかけているのが特徴です。またフォームファクターも見直しており、Pixel 8はよりコンパクトに、Pixel 8 Proはフラットディスプレイを採用し、操作感が向上しています。
数字以上にコンパクトに持ちやすくなったPixel 8
実機を手にして、まず感じたのがPixel 8のコンパクトさ。数字の上では、ディスプレイサイズが6.3インチから6.2インチに小型化しており、横幅や高さもそれぞれ4mm程度、削減されています。
特に効いてくるのが端末の幅。Pixel 8のそれは70.8mmに抑えられており、握りやすさは数字以上に大きく向上しています。「Pixel 7」と並べてみると一目瞭然。広報写真では伝わりづらいポイントですが、手なじみが劇的によくなっています。
ちなみに、前モデルはPixel 7が横幅74.8mm、上位モデルの「Pixel 7 Pro」が75.9mmで、その差はわずか1.1mm。これに対し、Pixel 8とPixel 8 Proでは5.7mmもの差がついています。
前モデル以上に大小の違いが明確化したため、Pixel 8を選ぶ理由が増えました。Proと廉価モデルのaシリーズに挟まれて、ややアイデンティティを失いかけていた無印Pixelの存在意義が高まったと言ってもいいでしょう。
一方でPixel 8 Proは、幅は0.4mm小型化しているものの、高さは同じ。実機に触れた印象も、似ています。ただし、ディスプレイが完全にフラットになったことで、左右がカーブしていたこれまでのProとは操作感は変わっています。
ディスプレイ周りのベゼルが見えづらくなるなど、デザイン上のメリットはあるカーブディスプレイですが、操作性や視認性が犠牲になるのも事実。ユーザーの評判もイマイチだったことを踏まえれば、ある種、当然の進化と言えそうです。
Tensor G3のAI処理性能で多数の新機能を実現
写真から想像していた以上に変化していた外観ですが、中身の進化もインパクトがありました。チップセットに「Tensor G3」を採用したことで向上したAIの処理能力を生かし、「ベストテイク」や「編集マジック」「音声消しゴムマジック」を実現しています。
いずれもソフトウェアのため、「消しゴムマジック」のように、最適化を図れば過去のPixelや他社スマホにも提供する可能性はありますが、今のところ、これらに対応しているのはPixel 8/8 Proだけです。
ベストテイクは、集合写真を最高の1枚に仕上げる機能。複数枚撮った中から顔を合成し、1枚の写真に仕上げることができます。
写真を撮ることが多い人は理解しやすいかもしれませんが、集合写真でバチっと全員がベストな表情であることはなかなかありません。
仕事で複数のインタビュイーやゲストを撮る筆者も、それを痛感しています。だからこそ、発表会のフォトセッションではこれでもかというほどシャッターを切るわけです。
それをAIの合成でサクッと済ませられるのが、このベストテイク。実際に使ってみても、合成とは思えない自然な仕上がりで、あえての変顔をしていた筆者が瞬時にいなくなりました(笑)。
編集マジックも、便利でおもしろい機能。空の色味だけを大きく変えたり、写真に写っている1人だけ大きさを変えたりといったことが簡単にできます。
同様のことはPhotoshopなどの本格的な編集アプリを使えばできたことですが、スマホの中の編集機能だけで、シンプルな操作で完結しているのがポイント。専門的な知識がなく作業ができるため、より多くの人に広がりそうです。
音声消しゴムマジックは、映像に入ってしまった雑音など、特定の音だけを除去する機能。こちらもAIが音を分析して、短い操作で編集が完了します。
以下の写真の場合、「音楽」「周囲の人」「ノイズ」という3つの選択肢が表示されるので、これをタップ。スライダーで音量を変更すれば、その音だけ、音量を変更できます。
いずれもハードウェア由来ではありませんが、処理能力を生かしたPixel 8/8 Proならではの機能。チップセットをアップグレードし、その機能を上手に新機能に結びつけてきた印象があります。
驚きの7年アップデート保証ができる理由
持ちやすくなったハードウェアに、進化したソフトウェアと、アップグレード感があったPixel 8/8 Proですが、発表を受け、筆者がもっとも驚いたのはそのサポート期間の長さでした。
両モデルとも、セキュリティパッチはもちろん、新機能を追加する「Feature Drop」やOSアップデートまで7年の保証をしています。Pixel 7シリーズまでは5年だったため、これがさらに2年延びた格好です。
7年前と言えば、日本では未展開だった初代Pixelが投入された年。Galaxyだと「Galaxy S7 edge」、Xperiaだと「Xperia XZ」、AQUOSに至ってはキャリアごとにまだブランドが分かれていました。
iPhoneで言えば7年前のモデルは「iPhone 7」に相当するわけで、アップデート期間が長いアップルですら、さすがに同モデルへの最新OS提供は21年が最後になっています。
ここまで長期のアップデートを提供できる背景として、Google自身がPixelを垂直統合的に手がけていることが挙げられます。OS、チップセット、ハードウェアを1社で担っているからこそ、こうした保証がしやすいというわけです。
これが他のメーカーだと、Googleに将来、どんな方向にOSが進化していくのかのお伺いを立て、クアルコムなりMediaTekなりに対応の可否を確認し……となり、簡単に「保証します!」と言い切ることはできません。
実際、過去に取材した複数のメーカーは、OSアップデートの期間を問われた際に、そのモデルが搭載するチップセットがどのバージョンのOSまで対応するかが分からず、回答が難しい旨を語っていました。
その意味では、垂直統合的にOSからチップセット、ハードウェアまでを一手に手掛けているGoogleならではの手厚い長期サポートと言え、Pixelならではの魅力になっています。
ただ、あまりに差がつきすぎると、メーカーはもちろん、それを支えるチップセットベンダーからも物言いがつくおそれがあります。
Googleも、20年にクアルコムとの協業で「Project Treble」を強化するなど、OSバージョンアップを長期化する取り組みを進めてきましたが、今後、それをさらに加速させる必要が出てくるでしょう。
また、プラットフォーマーでもあるGoogleが7年アップデートを打ち出したことで、今後のAndroidがどの程度のスペックで動くのかが見通しやすくなりました。こうした点を踏まえれば、アップデートの長期化は、今後他のメーカーにも波及する可能性はありそうです。