45年前に発売された革命的デバイス、ウォークマン。そのアニバーサリーにふさわしいエポックメイキングなアプリが登場しました。
初代ウォークマン「TPS-L2」が発売されたのは45年前、1979年7月1日。当時、発売すぐに新製品を購入し、今はメルカリで買った別個体を修理してもらい完動する初代ウォークマンをたまに持ち歩いて当時のカセットを聴いています。
超軽量ヘッドフォン「MDR-3L2」はオレンジ色のイヤーパッドが経年劣化で存在しないため、似たようなものを買ってきて組み合わせています。あと5年で半世紀というデバイスが今も動いているというのは奇跡です。
(▲初代ウォークマンと、付属ヘッドフォンに似たパチモン)
大学2年生の夏休み。筆者が帰省して高校時代の友人たちに自慢したのがこの初代ウォークマンです。そしたら、友人の一人が「俺もウォークマン持っとる」と見せたのが、録音機能付きモノラル再生機のプレスマン「TCM-100」。
ソニー創業者の一人である井深大名誉会長のために、このプレスマンをステレオに改造したものが初代ウォークマンの元になっていたというエピソードは後で知ることになったので、彼には先見の明があっということでしょう。
それからは、自分が聴く音楽はカセットテープに録音して持ち出し、外で自由に聴いて、一人きりの音楽の世界に浸るという行為が一挙に普通になりました。
世紀が変わってiPodが登場し、1000曲をポケットに入れられるようになっても、「音楽を一人で外で聴く」というコンセプトは変わりません。iPodから進化したiPhoneになり、iTunes Music Storeで音楽を購入し、それがSpotify、Apple Musicとストリーミングになって、今では世界中の1億曲を聴けるようになりましたが、変わっていない部分があります。
それは、誰かがここ数十年間に作ってきた音楽を聴いている、というところです。
その流れが大きく変わりつつあります。その変化の源は、SunoやUdioなどのAI作曲サービス。ユーザーは自分でキーワードを入れるだけで、AIの力で好みの曲を作り出すことができて、しかもその品質は商用の曲に匹敵するか、ともすれば超えてしまう。そんな状況です。
米国の音楽業界団体であるRIAAやレコード会社はSunoとUdioに対する訴訟を起こしました。AIによる不当な複製・学習を理由として挙げていますが、AIが商業品質の楽曲を量産できるとなると、アーティストやレコード会社の利益が減ってしまうという状況を恐れているためです。それは訴状にも書かれています。
そんな中、Sunoが打ち出した次の手は、2つ。
Sunoで楽曲を作るときにプロンプトだけでなく、音を録音もしくはアップロードして、その続きをAIが作るAudio Input機能を無料ユーザーにも公開したこと。
もう1つは、iOS公式アプリをリリースしたことです。
SunoはWebサービスでモバイルにも対応しているため、モバイル版ブラウザでアクセスすれば問題なく利用できるのですが、なぜわざわざアプリを出すのか。その理由を探るべく、使ってみることにしました。
実はこの公式アプリがダウンロードできるのは、米国のApp Storeのみ。それ以外の国ではダウンロードできない状態です。筆者はiPhoneの1台を米国App Store専用機として使うことにし、このSuno公式アプリを使ってみました。
以下はそのファーストインプレッションです。
iOS版Suno公式アプリをインストール
SunoアプリをApp Storeで探そうとしてもなかなか見つかりません。Webサイトにラッパーを被せただけの偽Sunoアプリがすでにいくつもあるからです。
(▲いかにも公式っぽいが偽物アプリ)
本物へのリンクは、本家サイト(suno.com)にあるリンクから行くのが最適です。正しいアプリはこちら。
(▲本物のSuno公式アプリ)
無料ですが、In-App Purchasesとあります。アプリ内課金があるということで、App Storeを通してサブスク支払いが可能ということになります。料金はSunoへの直接支払いと同じ。
通常のApp Storeアプリ内課金の要領でサブスクできます。
有料会員にならなくても毎日付与される50クレジットで1日5回、10曲分の生成ができるので気軽に始めやすく、アプリ内ストアでの支払いは簡単なので、iPhoneユーザーは急増するのではないかと思います。
ログインは、従来のMicrosoft、Discord、Googleアカウントに加え、Appleアカウントでも可能になりました。
驚くべきは、楽曲を聴く流れのスムーズさ。これはSpotifyなどのよくできたストリーミングサービスのように、自分が興味を持った、AIが作った音楽を次々と聴いていけるという、新しい音楽体験です。この感覚は、最初のVOCALOIDブームの時を思い出させます。今聴いている音楽は全て、人間のボーカルでもなければ、商用音楽でもないのだ、という。
おすすめ楽曲を紹介するSuno Showcase、人気曲のTrending、ジャンル別のラジオステーションも用意されています(ただし、Web版よりもジャンルは絞り込まれて10個のみ)。
iPhone版独自のカテゴリーとして、運動用BGMのWorkout Beats、勉強用のStudy Mixも設置されています。
楽曲の再生画面はWeb版のそっけなさとはまるで違い、おしゃれなUI。
それを確認する前に、曲を作ってみましょう。
画面右下のCreateボタンを押して作曲モードに入ります。今回はカスタムモードにして、この記事のタイトルを入れて作詞させてみました。
2曲が出来上がりました。なかなかポップなボカロ曲です。自分も底辺ボカロPですが、こんな曲は作れないなあ。
再生ページは3つのペインを左右スワイプで選択。一番左は歌詞が表示されます。ただし、カラオケ的に再生に合わせた表示はしてくれません。右側にスワイプすると、音楽スタイルが表示されます。
曲とプレイの様子はこちらの動画で確認してください。
では、もう1つの作曲方法を紹介しましょう。それは、自分でサウンドを入力して、Sunoにその続きを作らせるやり方です。
アプリ化されたことで、これが恐ろしく簡単になったのです。
iPhoneのマイクはかなり優秀なので、iPhoneで楽器やボーカルをそのまま録って、そのままSuno作曲に持ち込めます。今回はピアノの譜面台にiPhoneを置いて、そのままピアノでコード弾きし、それを元に曲を作ってもらいました。
その様子を動画に収めているので、興味のある方はどうぞ。
スマートフォンなら誰でも常日頃持っています。そこで録音したものが、そのまま曲として完成されるのです。
ただし、実はいくつか公式アプリに欠けている点があります。まず、曲の延長(Extend)ができなくなっていること。それと、ダウンロードがMP3のみという点。この辺りはわかりやすさを優先しているのではないかと思います。
音楽を外に持ち出す(ウォークマン)→音楽ライブラリを外に持ち出す(iPod)→音楽をどこでも買える・聴ける(iPhone)と進化してきた音楽リスニング体験ですが、ついに「音楽を自分(とAI)で作って自分で聴く」(iPhone + Sunoアプリ)というところまで来てしまいました。それに要した45年というのは長いのか短いのか。
米国以外のApp Storeでもそう遠くない未来にSunoアプリが登場するはず。Android版と合わせて登場が待ち遠しいです。