楽天グループが5年ぶりの黒字化。収益改善した楽天モバイルに残された課題は?(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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楽天グループが第3四半期決算で、5年ぶりとなる黒字となりました。最大の理由は、楽天モバイルの赤字が大きく縮小したこと。

第3四半期を見ると、楽天モバイル単体のNon-GAAP営業利益で265億円、設備投資の減価償却を除いたEBITDAでは305億円の大幅改善を実現しました。楽天モバイルは売上高も前年同期比で19.5%と伸びており、1060億円に達しています。

▲楽天は、第3四半期決算で5年ぶりに黒字化した。楽天モバイルの損失を大きく圧縮できたのがその理由だ。写真はRakuten Link AIの発表会に登壇した三木谷氏

巨額の設備投資に苦しんでいると言われていた楽天モバイルですが、23年にRakuten最強プランを導入して以降、急速にユーザー数が伸びています。第3四半期終了時点(9月末)での契約者数はドコモ、au回線を借りるMVNOとの合算で812万に達しており、MVNOや他社に貸し出すMVNEとしての回線を除いても741万契約まで伸長しています。

▲ユーザー数はMVNOなどとの合計で812万に達した

携帯電話事業は比較的シンプルで、このユーザーが毎月どれだけの料金を払うかによって業績が大きく左右されます。楽天モバイルの場合、ユーザーが伸びていることに加え、1ユーザーあたりの単価が上がっていることで売上げが伸びたというわけです。

1ユーザーあたりの平均収入を示すARPUは、第3四半期でデータ通信が1719円。音声通話が91円となり、オプションや広告でも229円を稼いでいます。

▲徐々にではあるが、ARPUも伸びている

これらを合算した通信のARPUは2039円。第2四半期の2021円から増加傾向にあります。背景には、ユーザーがデータ通信をより使っていることがあります。24年10月時点では、1日あたりの平均データ使用量が1GBになり、1カ月あたり平均で30GBに達しました。

Rakuten最強プランは段階制の料金プランを採用しているため、20GBを超えるユーザーが増えれば増えるほど、APRUが上がりやすくなる構造。ユーザーが増え、データ使用量の平均値が伸びることで売上げが上がったというわけです。

▲データ使用量も増え、1日平均で1GBに達した

一方で、コスト削減も続けており、これによって利益も出やすい体質になってきたと言えるでしょう。楽天モバイルは、以前から24年内のEBITDA黒字化を目指していましたが、第3四半期でそれがマイナス52億円になり、ついにリーチがかかった格好です。

売上げの伸びやAPRUの高まりを考えれば、目標達成は可能になりそう。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長も、「EBITDAの黒字化はそこまで来ている」と自信をのぞかせました。

携帯電話事業は、いったん損益分岐点を超えると、そこから利益を生み出し続ける源泉になります。ユーザーが極端に減ってしまったり、データ使用量が伸び悩んだり、政府から値下げを強く要求されたりといった不確定要素はあるものの、サブスクリプションという性格上、事業経営は安定します。

楽天モバイルが黒字化を急ぐのもそのためで、三木谷氏も「携帯ビジネスは大変大きな設備投資を要求されるが、一定の損益分岐点を超えるとそこから大変大きな利益が出てくる」と語っています。

▲楽天モバイルの業績。まだ赤字ではあるものの、黒字化にリーチがかかった状態だ

楽天グループ全体にとっては、楽天モバイルユーザーが楽天市場や楽天トラベルといった他のサービスをより積極的に使うことで収益を上げることも可能になります。そのために、楽天モバイルはユーザーに対し、楽天市場での買い物に対してプラス4%のポイントを付与するSPUを展開しています。

この成果があり、楽天モバイル契約者は非契約者より2.45個多い楽天のサービスを利用するようになりました。

また、楽天市場、楽天トラベル、楽天カードの流通総額も、非契約者より高い傾向があるようです。確かに、ポイントが非契約者より4%高ければ買い物を楽天市場に集中させようという気になります。

その際に楽天カードを使えばさらにポイントが貯まるわけで、楽天固めをしたくなる気持ちはよく分かります。こうしたエコシステムへの貢献も強く出てきているというわけです。

▲楽天市場を中心としたエコシステムへの貢献度も高いという

楽天グループは、その上昇分をARPUに参入しており、第3四半期では「エコシステムアップリフト」ぶんの収益が762円計上されています。先に挙げた通信関連のARPUである2039円と合算すると、合計値は2801円になります。

三木谷氏は以前から黒字化達成の条件として、800万から1000万の契約者と、2500円から3000円のARPUを挙げていました。MVNO契約者やエコシステムぶんのARPUを加えれば、その最低条件はクリアしたことになります。

こうした事情を反映するため、楽天グループは、第3四半期からエコシステムの増加分を正式に楽天モバイルの収益として計上するようになりました。正確には、楽天モバイル契約を促進するために他のサービスがかけたコストを差っ引いているものの、収益的には増加する形になっています。

確かに楽天エコシステムにおける楽天モバイル効果は大きく、そのぶんを楽天モバイルの収益に計上するのは理にかなっているようには見えます。一方で黒字化目標だった24年末直前の第3四半期で一気に増収する形となり、楽天モバイル単独で黒字化する秘策があると思っていた筆者は少々肩透かしを食らったような気分になりました。

なんとなく、数字のマジック感があることも否めず、モヤモヤしてしまいます。

▲エコシステムへの貢献分が、楽天モバイル単体の営業利益に反映されるようになった。これにより、黒字化も達成可能になると見られる

ただ、そのエコシステムアップリフトのARPUも、四半期を追うごとに徐々に下がっています。新規ユーザーはそのメリットに気づくまでに時間がかかるのかもしれませんが、楽天モバイルが一般化してくると、ポイ活や楽天経済圏に関心のない人の割合も増えてきます。

三木谷氏は、契約後1年経過し、ロイヤル化したユーザーは905円(平均は762円)に上がるとしていましたが、今後、全員が1年経っただけでロイヤル化するかどうかは未知数です。

また、通信料金の競争も激化しています。10月にahamoが30GB化を仕掛け、KDDIやソフトバンクもこれに追随。オンライン専用プラン/ブランドに限って見れば、20GB超30GB以下であれば楽天モバイルよりも安い料金もしくはほぼ同額で利用できるようになりました。

それを超えると楽天モバイルは無制限になるため、強いことは確かなものの、安さを武器にしていた楽天モバイルにとっては不安材料になることも間違いないでしょう。

▲ドコモがahamoを30GB化したのを皮切りに、各社がそれに対抗している。写真はKDDI。対する楽天モバイルは料金プランを現時点で変更していない

三木谷氏は「楽天市場でSPUのポイントがアップしたり、Rakuten Linkを使えば通話やSMSも無料になったり、海外でも2GBまで無料で使えたりする」としながら、「現在のプランでもまだまだ優位性が高い」と話し、即座に他社に対抗する意向がないことを明かしました。

一方で、通話やSMSはLINEなどのアプリである程度までは代替可能、ローミングも関係ない人には響かないだけに、それだけではやや弱いような印象も受けました。楽天モバイルは新規参入で価格競争を仕掛けてきた立場なだけに、大手3キャリアへの対抗策にも期待したいところです。

《石野純也》

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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