iPhoneに物理キーボードがあったら? そんな夢をかなえるスマホケースの「Clicks」が、日本に上陸しました。
現在、同製品を開発・販売するClicks TechnologyのAmazonストアができており、「iPhone 16 Pro」および「iPhone 16 Pro Max」用のケースを購入が可能。
また、同社自身のストアからは、海外からの輸入という形になりますが、iPhone 15シリーズや14シリーズ向けのケースを購入することができます。
▲日本では、iPhone 16 ProとPro Max用のケースから発売になった。カラーはこの3色
Clicksは、24年1月に米国ラスベガスで開催されたCESで発表、その後、アメリカやカナダ、イギリスなどで販売を開始しており、現時点ですでに8万台もの出荷台数を誇ります。
バッテリーなどはなく、iPhoneに装着するだけでOKという手軽さで、輸入もできたことから、正式販売を開始する前から、同社のサイトを訪問する日本のユーザーはトップクラスに多かったといいます。
日本上陸にあたっては、携帯電話の販売代理店を展開するティーガイアとタッグを組んでいます。上で紹介したAmazonのClicksストアも、販売業者はティーガイアになっています。
ちなみに、Amazon上でストアを作るのは世界初。海外では、自社サイトや主要な家電量販店での販売が多いようです。
▲販売前にも関わらず、日本からのアクセスは5番目に多かったという。日本市場ではティーガイアとタッグを組んで販売を開始した
キーボードつきのスマホというと、古くは日本でも販売されていたBlackberryを思い出す向きもあるでしょう。その影響力の大きさもあって、iPhone登場以前は、スマホと言えばQWERTYキーボードという時代もありました。
日本製のスマホでも、シャープの「W-ZERO 3」はキーボードを搭載。Androidでも、「IS01」やら「GALAPAGOS」がQWERTYキーつきで登場しています。一方で、iPhoneは登場当初から一貫して、タッチパネルの入力にこだわってきました。
そんなiPhoneでどうしてもキーボード入力がしたいという強い思いを持って開発されたのが、Clicksです。
同社は、キーボードつきAndroid端末の「F(x)tec Pro1」を開発したエイドリアン・リー・モウ・チン氏がCEOを務めており、元Blackberryのメンバーも参画しています。
日本上陸時にClicksをプレゼンしたCMOのジェフ・ガドウェイ氏も元Blackberry。モバイルキーボード大好きなチームで開発にあたっているといいます。
▲CEOのチン氏は、キーボードつきAndroidスマホを開発してきた
▲CMOのガドウェイ氏は、Blackberry出身。キーボードスマホのドリームチームが集まった
そのため、キーのクリック感は、気持ちよさが抜群に高くなっています。硬すぎず、かと言って柔らかすぎずプチプチと押せて、押下した感覚もしっかりあるため、何となく文字を打ち続けていたい気分になります。
また、よくよく見ると分かりますが、指がしっかりハマって押しやすいよう、キー1つ1つは左右どちらかが高くなるように設計されています。この独自の形状も、打ちやすさに貢献しています。
▲プチプチとした、心地いい押し心地のキーを搭載
▲キーはフラットではなく、左右どちらか高く、傾斜がついている
何より、iPhoneそれぞれのモデルに合わせたケースを出しているところも、同社のこだわり。これは、iPhoneとの「パーフェクトなフィット」(ガドウェイ氏)を目指しているからと説明。
ケース部分をマルチモデル化するなどすれば、在庫管理が容易になり、コストも削減できそうですが、「iPhoneの延長と感じてもらいたかった」(同)というコンセプトを守るため、1機種ごとに専用のケースを出すことにしたといいます。
▲1機種ずつサイズが異なるため、各iPhoneにしっかりフィットする
便利なのが、ショートカットキー。iPhone純正アプリの「ショートカット」を組み合わせることで、好きなアプリの起動などを各キーに割り当て可能となっており、Clicksキーとの同時押しで呼び出せます。
X(旧Twitter)を「X」キーに設定しておいて、そのままキーボードでつぶやきを入力するといった使い方も可能になります。物理キーで入力すれば、iPhoneの画面を広々と使えるのもメリットです。
▲アクセシビリティでフルキーボードアクセスをオンにしたあとショートカットを割り当てるという、やや複雑な設定が必要になるが、特定のアプリを一発で起動することもできる
とは言え、Androidのキーボードつき端末は、スライドタイプが多く、横位置でキー入力をするのが一般的でした。
Blackberryは画面が横長で、その下にキーボードを搭載するというデザイン。縦のサイズを抑えるため、このような設計になっていたことが推察されます。
これに対し、Clicksは縦長のiPhoneのさらに下にキーボードがくるため、装着するとかなり縦方向の長さが出てしまいます。比較的大き目のポケットでも、軽くはみ出てしまうレベルです。
▲装着すると、どうしても超縦長のiPhoneになってしまう
また、どうしてもiPhone本体の方が重さがあるため、重量バランスが少々悪くなってしまうのも難点。キーボード付近を支えるように持つと、重力に引っ張られるような感覚があります。
キーの打ち心地やフィット感は素晴らしい一方で、常用しようとすると、こうした点が気になってくる可能性があることは否定できません。そのため、キーボードが大好きなユーザーにどの程度受け入れられるかは未知数です。
日本の場合、スマホや携帯電話でのQWERTYキーが一般的ではなかったという特殊事情もあります。フィーチャーフォン時代は10キー入力が主流で、ソフトウェアキーになったiPhoneもそれを受け継いでいます。
フリック入力が市民権を得たのは、10キー入力を再発明したからにほかなりません。ローマ字入力だと1文字打つのにほぼ2クリック必要になってしまう言語事情も関係しています。
▲身も蓋もないことを言ってしまうと、日本語入力なら一発で済んでしまうフリック入力の方が効率はよかったりもする
10キーからフリックキーへとシームレスに移行したこともあり、日本市場ではモバイル端末でQWERTYキーを使うという文化が根付いていなかったと言えるでしょう。この市場環境が、Clicksにとって逆風になるおそれもあります。
とは言え、同社自身もClicksが広くあまねく使われる商品とは考えていないようで、ガドウェイ氏も「ビジネスケースを最初に考えたとき、1000人に1人が買ってくれれば利益が得られて成功する」(同)と述べています。これまで日本から購入したユーザーの数を踏まえると、その「1000人に1人以上のところは見えてくる」(同)といいます。
その意味では、コアなユーザーに深く刺さるようなバリエーション展開や販売促進をしていくことが重要になりそうです。