携帯ゲーム機PSPで採用された60mm光ディスク「UMD」(1.8GB、2004年頃~):ロストメモリーズ File009

テクノロジー Science
宮里圭介

宮里圭介

ディスク収集家

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需要のわからない記事を作る自由物書き。分解とかアホな工作とかもやるよー。USBを「ゆしば」と呼ぼう協会実質代表。

特集

[名称] UMD、Universal Media Disc
(参考製品名 「初音ミク Project DIVA 2nd」他)
[種類] 光ディスク(ROM)
[記録方法] 不可、レーザー光(660nm)
[メディアサイズ] 64×65×4.2mm
[記録部サイズ] 直径約60mm
[容量] 1.8GB
[登場年] 2004年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

「UMD」(Universal Media Disc)は、ソニーが開発した60mmの光ディスク。携帯ゲーム機の「プレイステーション・ポータブル」(PSP)用メディアとして開発され、通常のCDやDVDの120mm、シングルの90mmと比較し、かなりコンパクトなサイズになっているのが特徴です。

▲PSPでは、メディアとしてUMDが採用されました

PSPのような携帯ゲーム機に光学ドライブを載せるのはコスト面で不利だとか、ドライブの故障がどうだとか、振動に弱くて使い物にならないだとか、ディスクが傷つきやすいだとか、発売前はそこそこネガティブな話が飛び交っていたような記憶があります。

これらの批判は的外れというわけでもなく、MD(ミニディスク)やCD等の携帯光ディスクプレーヤーで音飛び、故障などを体験したことがある人であれば、直感的にわかるようなもの。しかし、裏を返せばこれらの機器での技術的な蓄積によって、十分対策ができるという判断があったのでしょう。

UMDの仕様を見ていると、その対策方法がいくつか読み取れます。まず、ディスクの厚みがDVDの1.2mmに対し、UMDでは0.84mmしかないこと。振動対策にはディスクそのものを軽くするというのが有効ですから、これはかなり効果的だと考えられます。また、読み取り面から記録層までの厚みを0.38~0.468mmと薄くすることで、ディスクの傾きや反りによる反射光のズレが抑えられています。

基本的な技術はDVDにかなり近く、レーザー波長はDVDの650nmに対して660nm、トラックピッチはDVDの0.74μmに対して0.70μmと、多少の差があるものの似ています。また、2層記録を採用し、60mmというサイズながら最大1.8GBという容量を実現しているあたりも、DVDの大容量化と重なる部分があります。

UMDはPSP向けの新しい光ディスクではありますが、既存の技術をうまく活用しているだけに、開発や製造は比較的スムーズだったのではないでしょうか。

とはいえ、携帯ゲーム機用と考えると、いわゆるROMカートリッジの半導体メモリーと比べて扱いが難しく、ドライブが高価だという事実は変わりません。それでも採用したのは、量産がしやすく、メディア単価を下げられるから。UMDはゲーム用としてだけでなく、最初から映像や音楽用のメディアとしての利用も視野に入れられていた(「ユニバーサル・メディア・ディスク」という名称は伊達じゃありません)だけに、パッケージメディアとしてのコストにはかなり敏感だったと考えられます。

▲著作権保護技術が採用された映像用の「UMD Video」、音楽用の「UMD MUSICソフト」も発売されました

ということで、そんなUMDを細かく見ていきましょう。



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シャッターのないカートリッジでそこそこ保護

UMDは光ディスクそのままではなく、保護用のカートリッジに納められています。表面を見ると、中央に「UMD UNIVERSAL MEDIA DISC」、左下に「PSP」のロゴが共通してあります。

また、カートリッジの形状が特殊で、MDやMOのような四角いものではなく、半分は円状、もう半分は丸みを帯びた四角形といった形になっているのが特徴です。

▲UMDは特徴的な形状と、中央のUMDの文字で判別できます

ドーナツ状の透明な部分は空洞ではなく、樹脂で保護されている部分。ディスク面に印刷されたレーベルが透けて見え、タイトルがわかるようになっています。

ちなみに、右下にあるゲームコントローラーのような「🎮」マークは、このUMDがゲームメディアだということを表しています。映像メディアだと「🎞️」、音楽メディアだと「🎵」になるので、わかりやすいですね。

▲ゲーム「🎮」、映像「🎞️」、音楽「🎵」

UMDのように、カートリッジになっている光ディスクは読み取り部にシャッターがあり、ゴミやホコリの侵入防止、意図せず指がディスク面に触れないようにするというのがよくある構造。しかし、UMDはこのシャッターを装備せず、窓は開きっぱなしです。

▲読み取り部にはシャッターはなく、切り欠いてあるだけです

ディスク面の保護を考えるなら、この構造は「ありえない」となるのですが、よく考えてみれば、カートリッジに触れるのはゲームなどの交換時のみ。読み取り部はドライブへの挿入方向に対して横向きなので、普通に交換するだけなら、指がかかることはありません。

▲つかむのはカートリッジの下部となるため、読み取り部には触りません

あとはゴミやホコリがカートリッジ内に入り込まないかの心配ですが、わざわざ雑に扱う人はいないわけで、個人が気を付ければいいだけの話になります。また、カートリッジは一部を除き透明なので、奥の方にゴミが入り込んだとしても、目視しながらゴミを比較的簡単に除去できます。ある意味「運用でカバー」ですね。

据え置き型のゲーム機となりますが、これまで散々CDやDVDといった光ディスクをそのまま使ってきたわけですから、ユーザーも扱いには慣れてきているはず。この点を考慮すれば、シャッターを付けないという判断は十分アリです。もちろん、製造コストも下がりますしね。

もうひとつ、CDやDVDといった光ディスクと異なるのは、中央に金属製のクランピングプレートを備えている点です。ここを磁力で引き寄せてディスクを挟み、回転させます。

▲中央の小さな金属部が、クランピングプレート

中央に金属製のプレートを持つというのは、3.5インチFDやMD、MOなどと同じですが、大きく違うのは、プレートとディスクが接着されていないこと。モーターを接続するハブではなく、あくまでクランプ(挟む)です。

カートリッジに内蔵されているとはいえ、役割的には古い低速な光学ドライブでよくあった、上蓋の裏側についてる重石みたいなものです。などといわれてもよくわからないと思うので、PCエンジンのCD-ROM2ドライブを例に見てみましょうか。

▲この上蓋の黒いものが、クランピングプレートと同じ役割に

CD-ROM2ドライブではこの黒い上部のプレートに磁石が入っていて、回転軸の金属版と貼りつくことでCD-ROM2ディスクを挟み込みます。

高回転化するには保持力が弱い、コストがかかるといった問題もあって、CDやDVDでは回転軸側で直接キャッチする機構へと進化していきましたが、UMDではまさかの古典回帰です。

とはいえ少し考えてみると、片面からのディスク保持が簡単、回転数を高くする必要がない、ディスクが軽いので磁力で十分、製造不良(プレート接着時の傾きや軸ズレ、異なる素材同士の接着による不良)が防げる、あたりが理由として思いつきます。とくに、量産性に直結する製造不良を防げそうだというのは大きいですね。

分解してみると、プレートはディスクとリング状のパーツで挟まれる形で一体化されていました。

▲中央の段差がリング状のパーツ。これで蓋をされているので外れません
▲せっかくなので、三枚おろしの写真も出しておきますね

国際標準規格化までやるも、PSP専用に

PSPの魅力はポータブルゲーム機という面が強いですが、それ以外にも、Wi-Fi接続によるインターネット端末や、メディアプレーヤー機能があります。

とくにメディアプレーヤー機能は便利で、大容量のメモリースティックを挿し、音楽や動画を楽しんだという人は多いのではないでしょうか。「携帯動画変換君」と聞いて当時を思い出す人なら、大きくうなづいてくれるでしょう。

ただし、音楽プレーヤーであればすでにiPodが登場していましたし、他社からも小型で多機能なメディアプレーヤーが多数存在するため、そこまで魅力があるとは言えません。

そもそも、基本的にポータブルメディアプレーヤーは、家にある音楽や動画を持ち出し、外で楽しめるようにするもの。いうならば、サブ的な使い方が前提の製品です。そのため、CDやDVDといったセルメディアで音楽や映像を提供する企業からすれば、違法コピーが蔓延する温床、くらいの認識であってもおかしくありません。

そこでUMDの出番です。低コストで1.8GBという大容量は映像作品の提供に十分で、DVDのようにセルソフトとして成り立つため、企業利益に直結します。さらに、PSPというプレーヤーが用意されているため、再生機器がないという不安もなし。しかもこのPSP、4.3インチで480×272ドットというASV液晶は当時としてかなり大きくキレイで、映像作品の視聴にもピッタリです。これが1万9800円という価格でしたから、音楽や映像を販売する側からすれば、かなり魅力的に見えたことでしょう。PS2でDVDが普及したという前例もありますしね。

UMDというメディアの立ち上げから必要とはいえ、ソニーとしては十分勝ち筋の見えるプレゼンを企業各社にできたのではないでしょうか。

▲音楽は映像の一種という扱いで、MVとして楽しめました

もちろん過去の苦い経験から、独自規格で製品を作って売るだけでは限界があることも知っていたはず。そのため、UMDは国際標準化の手続きが取られ、Ecma Internationalで標準規格(ECMA-365)として認証されています。

誤算があるとすれば、利点の多くがあくまで販売する企業視点だったことでしょうか。いくら音楽や動画を楽しみたいといっても、コンテンツを別の機器で再生できない、自由に扱えないというのはユーザーからしてみれば苦痛です。また、映像を視聴するにしても家のテレビで見るというのが一般的で、今ほどモバイルで映像を楽しむという文化がなかったのも痛手でした。

据え置き型の音楽・映像プレーヤーなどが登場すれば、また話は違ったかもしれませんが……。そういえば、音楽や映像を収録したUMDに「PSP」のロゴが入ってなかったのは、PSP以外のプレーヤーが登場することを期待してのことだったかもしれませんね。

▲ゲームではあった左下の「PSP」ロゴが、音楽や映像では入っていません

結局、UMDを使った音楽や映像の販売はあまりうまくいかず、ほぼゲーム用のメディアとなりました。

なお、PSPが現役の時代からダウンロード販売は始まっており、末期にはゲーム用メディアとしての役割も徐々に薄れていきました。UMDドライブ非搭載の「PSP go」まで発売されたのが、その証左。といっても、さすがにこれは過去のゲームが遊べないという点で、勇み足でしたが。

参考文献:


初音ミク -Project DIVA- 2nd お買い得版 (通常版) - PSP
¥1,480
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《宮里圭介》
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