(参考製品名 「SQ400」)
[種類] HDD
[記録方法] 磁気記録
[メディアサイズ] 137×138×12.7mm
[記録部サイズ] 直径約130mm
[容量] 44MB(フォーマット時、アンフォーマット時55MB)
[登場年] 1988年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
「SQ400」は、SyQuest社が開発したリムーバブルHDDドライブで、「SQ555」用のカートリッジ。当時としては容量が44MBと大きく、速度面でも他のリムーバブルメディアを圧倒していたことから、大容量データを扱う用途で人気となりました。
当時の情報をあさっていたところ、大変都合がいいことに、「PC Magazine」(SEPTEMBER, 1988)でリムーバブルストレージ13製品を評価した記事があることを発見。これを見ると、大きく3種類のメディアがあったことがわかります。
ひとつは内蔵HDDを丸ごとカートリッジ化して、交換可能としたもの(記事内での分類は、「Removable hard disk」)。価格は高くなりますが技術的なハードルが低く、製造しやすいというのがメリットです。もうひとつは、フロッピーディスクのようにフィルムをベースにしたもの(記事内での分類は、「Removable flexible cartridge」)。メディアのコストが安くなるというのがメリットですが、速度面では不利になりがちだという欠点もありました。
最後が、SQ400が採用していたプラッターのみ交換可能としたものです(記事内での分類は、「Removable hard cartridge」)。以前紹介した「Q-PAK」でも採用されていた方式で、HDDと違ってヘッドやインターフェースといった主要な機械・回路がドライブ側にあるため、カートリッジを比較的安価に製造できること、それでいて、容量や速度はHDD並みを実現できるというのがメリットです。
このQ-PAKを開発したSyQuest社が、さらに進化した製品として投入したのが、ドライブのSQ555とカートリッジのSQ400です。
ちなみにPC Magazineの記事内にはRemovable hard cartridgeとしてSYSGEN社の「DuraPak」もありますが、これはQ-PAKの後継となるSQ300と同じ。つまり、SQ400が登場した1988年頃において、カートリッジでプラッターだけ交換するリムーバブルHDDは、SyQuest社以外には製品化が難しい製品だったと考えられます。
Q-PAKから大きく変わった点は、3.9インチという微妙なサイズを5.25インチのフォームファクターに合わせ大型化したことと、ドライブのインターフェースにSCSIを採用した点です。
Q-PAKでは、次期フロッピーディスクとして標準になると信じていたIBMのデミディスケット(4インチ)に合わせ、3.9インチというサイズを選択したSyQuest社でしたが、ご存じの通り、主流となったのはソニーの3.5インチ。そのためQ-PAKは3.5インチベイに収まらず、かといって5.25インチベイでは余るという、微妙なサイズとなってしまいました。
そこでSQ400では、5.25インチのドライブベイサイズに合わせ、カートリッジサイズを大型化。これにより大容量化しやすくなり、44MBという大容量が実現できました。
インターフェースにSCSIを採用したのは、Macで普及し始めたDTP市場を狙っていたから。DTPは手元で印刷して完結するのであれば何の問題もありませんが、デジタルデータで納品する必要がある場合、何らかの方法でデータを受け渡す必要が出てきます。当時普及していたフロッピーディスクでは容量が足りず、かといって高価なHDDをそのまま渡したところで、相手の環境に接続できるかわかりません。
その点リムーバブルHDDであれば、双方がドライブを持っているという前提はあるものの、カートリッジのやり取りだけでデータの受け渡しが完了します。この狙いは大当たりし、SyQuest社は大きく成長しました。
そんな飛躍の原動力となったカートリッジ、SQ400を見ていきましょう。
前後の直線ではなく弧状に動くヘッドを採用
カートリッジを見てまず気づくのは、正面にアクセスウィンドウ、およびそれを保護するシャッターがないことです。
といってもホントにないわけではなく、側面、ドライブへ挿入する側の面にあります。
ユニークなのは、ヘッドアクセスドアの開閉方法。カートリッジをドライブに入れると、ヘッドアクセスドアの突起部にバーがあたり、押し込むことで開きます。内部にはバネが入っているので、取り出したときには自動で閉まるわけです。とくにロックするような機構はないので、引き戸のような感じです。
カートリッジが透けているので開かなくてもわかりますが、中のプラッターは1枚。今どきのHDDを分解したことがある人ならわかると思いますが、かなりの厚みがあります。手元のノギスで厚みを測ってみたところ、約1.7mmでした。
このヘッドアクセスドア、やたらと大きく作られていますが、これはヘッドの動かし方を変更したことと関係します。
従来はフロッピーディスクなどと同じように、ヘッドを正面から真っすぐ挿し込む形が採用されていました。しかしSQ400では、内蔵HDDと同じようにヘッドが横向きに取り付けられ、弧を描くように動くようになりました。動きとしては、レコードプレーヤーに近いですね。つまり、ヘッドのアームがカートリッジにぶつからないよう、大きくなったわけです。
HDDはヘッドとプラッターの接触や固着を防ぐため、未使用時にはヘッドが退避するようになっています。よくあるのは、プラッターの内周、もしくは外周にあるシッピングゾーンへとヘッドを移動するシッピングゾーン方式。シッピングゾーンにデータは記録されていませんが、表面に特殊な加工が施されているため、ヘッドが固着することがありません。ただし、ヘッドとプラッターが接触するため、強い衝撃を与えると傷ついてしまう恐れがあること、また、回転と停止を繰り返すことによるヘッドの摩耗といったデメリットがあります。とくにリムーバブルHDDではカートリッジの挿抜を行うため、このデメリットは無視できません。
これに対してランプロード方式は、プラッター外までヘッドを退避する方式です。より大きくヘッドを動かす必要があること、退避場所でヘッドを固定する機構が必要となることからコストは高くなりますが、そのぶん信頼性を高められるのがメリット。リムーバブルHDDなら、カートリッジ内のプラッターを傷つけてしまう危険が小さくなります。また、プラッターを回転させてからヘッドを動かすため、ヘッドの摩耗も防げます。
こうした理由から、SQ400のドライブとなるSQ555では、このランプロード方式がいち早く採用されました。
先のドライブ内部写真をよく見ると、2つのヘッドの隙間に二股フォークのような黒い部品が挟まっているのがわかるでしょうか。これで、ヘッドが退避場所に固定されています。
なお、裏面はヘッドアクセスドア部分が切り取られていることと、中央にハブがあること、右下に赤いライトプロテクトスイッチがあることが特徴です。
プラッター駆動部との接続に使われるハブの形状は、中央にチャック用の5つの爪があるなど、Q-PAKと酷似。インデックスノッチとして外周の一部に凹みがあることも同じです。
ライトプロテクトスイッチは回転式で、切り替えると側面ラベルの横が赤くなり、書き込み禁止で読み取りのみとなります。逆方向に回転すると赤いマークが隠れ、読み書き可能となります。
カートリッジのパッケージですが、SQ400は結構長く販売されていたようで、製造時期などの違いで多くのバリエーションがあります。SyQuest社自身によるものでもグレー基調とパープル基調の2種類ありますが、この中でもさらにデザイン違いが存在します。
これとは別にOEM先ブランドでの販売もあったようで、手持ちであれば花王、ebayで見かけたものではマクセルなどがありました。
ドライブではなくカートリッジで利益を出すビジネス
ドライブのSQ555は1000ドルちょっとで高めとはいえ、カートリッジのSQ400は100ドルくらいと安価なのが強み。1988年の広告を見ると、40MBのHDDは350~450ドルくらいですから、HDD4台ぶん以上のデータを扱うのであれば、SQ555+SQ400の方がお得になる計算です。
普段使いのHDDとしてはもちろんですが、データの受け渡し用、保存用としても使えるのがいいところですね。保存だけならテープデバイスも捨てがたいですが、データの検索性や参照のしやすさを考えれば、SQ555+SQ400の方が断然便利。予算的にもそこまで大きく変わらないなら、選ばない理由がありません。
実際、ドライブ単体ではほとんど儲けが出なかったようですが、カートリッジは利益が出しやすく、これによってSyQuest社は大きく成長しました。
1991年には容量を88MBに倍増した「SQ800」が登場しましたが、その後、互換カートリッジに苦しめられることになります。また、エンドユーザーへのドライブ販売を自社で行ってこなかったことによる価格の高止まり、思ったように進まないDOS市場開拓、競合となるIomega社との関係などは、また別の機会で。
参考:
「Removable Mass Storage」, PC Magazine, Google Books
Tom Gardner, 「Oral History of Syed Iftikar」, Computer History Museum
「SQ555 OEM」, SyQuest, bitsavers.org
「SyQuest 5.25-inch disk (44/88/200MB) (1988-1998)」, Museum of Obsolete Media
大原雄介, 「業界に痕跡を残して消えたメーカー リムーバブルディスクの元祖SyQuest」, ASCII.jp
「SyQuest Technology」, Wikipedia