グーグルは、3月の「Feature Drop」で、Pixel 7シリーズをデュアルeSIMに対応させました。なぜかGoogle Japanが運営するブログでは同機能のことが省かれていましたが、英語版にはその他の機能として記載があります。国ごとの販売モデルで対応状況は異なるものの、日本で販売されている型番のPixel 7、7 Proも、このアップデートを適用するとデュアルeSIMの利用が可能になります。
デュアルeSIMとは、2回線ともeSIMでデュアルスタンバイができる機能を指します。これまでのPixel、というより、ほとんどのAndroidは物理SIMとeSIMの組み合わせか、物理SIM2枚でのデュアルSIMでしか、2回線の同時待受けができませんでした。これに対し、iPhoneは21年に発売されたiPhone 13シリーズでデュアルeSIMに対応しています。
物理SIM、eSIMを問わないデュアルSIMが可能になったメリットは、組み合わせの自由度が高まったことです。例えば、筆者の場合、メイン回線のドコモをeSIM化していますが、サブ回線は物理SIMしか選択できませんでした。海外渡航をした際に現地のSIMカードを使いつつ、いつもの電話番号で待受けしようとすると、物理SIMを選ぶか、ドコモ回線をオフにするしかなかったというわけです。
逆に、ドコモ回線を物理SIMのままにしておくと、サブ回線がeSIM限定になってしまいます。プリペイドのSIMカードを使おうと思っても、eSIMに対応していない場合は、上記と同様に詰んでしまう格好です。デュアルeSIMになったからと言って、物理SIMを2枚組み合わせることはできませんが、組み合わせのパターンが大きく広がったと言えるでしょう。
早速筆者も、以前“実質約2万円”で購入したPixel 7を、デュアルeSIM化してみました。
元々、Pixel 7はauで購入したにも関わらず、LINEMOのSIMカードを挿していましたが、まずはこれをeSIM化。物理SIMからeSIMへの変更は、Web上の手続きだけで簡単に行えます。もう1回線は、iPhone 14 Proに入れたままオフになっていた楽天モバイル。こちらも、移行は「my楽天モバイル」でリンクをクリックしていくだけと、手続き方法がシンプルです。2回線のeSIMプロファイルをインストールしてみたところ、両方を同時にオンにできました。
おもしろいのは、この機能が後付けかつソフトウェアアップデートで利用可能になったことです。eSIMは、そのプロファイルを端末に内蔵したチップの中に格納する仕組みで、一意の「EID」と呼ばれるIDが付与されています。eSIMを標準化しているGSMAの仕様では、1つのEIDに対して、有効化できるプロファイルは1つだけでした。これに対し、アップデート後のPixel 7は、1つのEIDに2つのプロファイルを入れ、同時に利用できています。
一方、AndroidでPixel 7より先にデュアルeSIMに対応していた端末もあります。楽天モバイルの「Rakuten Hand 5G」です。ただしこちらは、端末にEIDが2つ付与されていました。つまり、端末内にeSIMを格納するためのチップが2つあったということ。そのため、eSIMプロファイルをインストールする際には、SIM1とSIM2のどちらか一方をユーザーが指定する必要がありました。かなり力業でデュアルeSIMに対応していたことがわかります。
実は、GSMAがeSIMの標準仕様にデュアルeSIMを取り込んだのは、22年10月に発表されたVer.3から。この新仕様では、デュアルeSIMに加えて、MWC Barcelonaの会場でグーグルが対応を表明した、eSIM転送機能も取り込んでいます。デュアルスタンバイができなかったり、機種変更が難しかったりといった、eSIMを利用するうえでのハードルを取り払った新しい標準仕様と言えるでしょう。サムスン電子の研究所が運営しているブログで、その概要がわかりやすく記載されています。
eSIM転送機能の対応では、GSMA標準に準拠することを明かしていたグーグルですが、おそらくこのデュアルeSIMも、独自仕様ではないでしょう。標準仕様に沿ってパートナーを拡大していくのが、同社のAndroidの戦略だからです。搭載しているチップやキャリア、メーカーの方針にもよりますが、今後、デュアルeSIMに対応するほかのAndroidスマホも徐々に増えてくるはずです。Pixel 7はその先駆けと言えるかもしれません。
先ほどチラリと触れたiPhone 13シリーズは、GSMAの新バージョンの前に発売されていますが、それができたのは、独自仕様として実装したからだと思われます。同様に、iOS 16から対応が始まった「eSIMクイック転送」も、アップルだけの独自機能だと言います。
標準化を待たずに対応しているため、搭載はAndroidより早かった一方で、eSIM転送機能については互換性の問題も出ており、現状ではiPhoneからAndroidへの一方通行の転送しかできないようです。グーグルは、RCSに対応していないアップルを痛烈に皮肉り、標準仕様への参画を呼び掛けていますが、今後、その戦線がeSIMにも拡大する可能性はありそうです。