auとソフトバンク、緊急時に互いの回線が使える副回線サービス開始。備えあれば憂いなしだが改善の余地も(石野純也)

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石野純也

石野純也

ケータイライター/ジャーナリスト

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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KDDIとソフトバンクは、お互いの回線を“予備”として契約できる「副回線サービス」を開始しました。KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはauのSIMカードやeSIMプロファイルをそれぞれ提供する仕組みです。KDDIは3月29日にローンチ済みでしたが、2週間後の4月12日にはソフトバンクもサービスインしています。

同サービスは、22年7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、急ピッチで開発が進められてきたもの。別途、総務省を交えて事業者間ローミングの検討も進んでいますが、それより手軽かつ短期間で実現できる冗長性確保の手段として、大手キャリア間で検討されてきました。

▲ついにKDDIとソフトバンクで始まった副回線サービス。写真はKDDIの副回線サービスで、ソフトバンクをサブとして設定している

端末の2台持ち、3台持ちは当たり前、回線は4キャリア網羅というユーザーには、何のメリットがあるのかわかりづらいサービスですが、一般的に、2回線以上契約しているユーザーは非常にレアです。22年8月にアイコムが公表したデータを見ると、集計対象の1200名中52名しか複数キャリアを契約していません。割合にすると、4.3%といったところ。ほとんどのユーザーは、1回線しか契約していないと言っても過言ではありません。

また、もう1回線持とうとすると、普段利用しているのとは別のキャリアの料金体系を調べたあと、契約の手続きをする必要があり、手間もかかります。契約後も、請求が2社から来て煩雑なうえに、それぞれのマイページから料金プランなどを管理する必要もあります。こうした手続きを普段契約しているキャリアにワンストップ化し、あたかもオプションサービスのように他社回線を持てるようにしたのが、副回線サービスの特徴です。

▲画面はKDDIの用意した専用サイト。auやUQ mobileユーザーは、ソフトバンクに行く必要なくソフトバンク回線を契約できる。逆もしかりだ

お互いが回線を貸し借りし合っている関係上、サービススペックはほぼほぼ同じ。通信方式は4Gまでで、データ容量は500MBと少なくなっています。500MBを超えると128Kbpsに速度が制限されます。ただし、元々お互いの設備に大きな影響を与えないよう、スループットの上限は300Kbpsに抑えられています。2社とも音声通話対応で、料金は月額429円です。オプションサービスの範囲内に納めつつ、ギリギリのスペックで、通信障害や災害時に通信を継続できるようにしたサービスと言えるでしょう。

▲2社とも、料金は429円。速度は300Kbpsに制限されている

ちなみに、300Kbpsがどの程度かというと、テクノエッジのトップページを表示するのに、30秒ほどかかりました。記事タイトルなどのテキストは10秒弱で読むことができました。ムキーとなって端末を投げ捨てたくなるような遅さではありませんが、かと言って、数十Mbps出ているような通常の通信と比べてしまうと、やはり待たされている印象があります。副回線というだけに、普段と同じような使い勝手ではない点には、注意が必要になります。

▲トップページを読み込み始めて20秒ほど経過した画面。テキストは読めるが、サムネイルの画像は半分ほどしか表示されていない

サービススペックや価格は2社で共通している一方で、提供形態にはやや違いもあります。例えば、SIMの種類はその1つ。KDDIは(ソフトバンクの)物理SIMとeSIMの両方を用意しているのに対し、ソフトバンクは(auの)eSIMしか提供していません。そのため、KDDIならSIMカードを差し替えての利用ができますが、ソフトバンクはeSIM対応のデュアルSIM端末が前提になります。この違いが、対応端末の数に表れています。

▲ソフトバンクが提供するのはauのeSIMのみ。そのため、物理SIMオンリーの端末は対象モデルに入っていない。特にPixelを除くAndroidの選択肢が少ない

また、販路についても2社で大きく異なります。KDDIは専用サイトを用意しており、そこでの契約になります。手軽に申し込めるのはメリットと言えますが、ショップでの取り扱いがないため、本来このようなサービスを必要とするユーザーにはややハードルが高くなっています。テレビCMなども行っていないため、認知度をどう上げていくかも課題になりそうです。

一方のソフトバンクは、ソフトバンクショップでの受付になります。オンラインで申し込めるようなスキルがあれば、勝手にpovo2.0あたりを副回線として契約くれという判断でしょうか……。確かにその方が、ユーザーにとっても料金的、速度的なメリットがあり、ソフトバンクも申し込み用サイトを作る手間が省けて合理的です。どちらかと言えば、ソフトバンクはユーザー層を踏まえて色々と割り切っているような印象も受けました。

▲オンラインでサクッと契約できる知識やスキルがあるなら、povo2.0の方が割安という真理も

ぶっちゃけると、料金的にはpovo2.0なり、mineoの「マイそく スーパーライト」なりを契約した方が安上がりで、かつ通信速度も速いわけですが、上記のように、自ら2回線以上契約しているユーザーはかなりの少数派。副回線サービスの提供は、そうした人に冗長性を確保することの必要性を認知させる効果もありそうです。その意味で、キャリアがサービスメニューの1つとして用意しておくことに価値はあります。

サービス自体も始まったばかりで、まだまだ改善の余地があります。KDDIの専用サイトも、取ってつけたような印象があり、一般的なユーザーがたどり着くのはなかなか難しいでしょう。ソフトバンクでも、積極的にショップスタッフがアピールするのかが未知数です。eSIM設定のためのQRコードが宅配便で送られてくる点など、いわゆるUX(ユーザー体験)を高める工夫はもっとしてほしいところです。

回線で言えば、ドコモや楽天モバイルが参画していません。現状だと、KDDIユーザーにはソフトバンク回線しか選択肢がなく、ソフトバンクユーザーにもau回線しか選択肢がありません。エリアの都合でドコモを選びたいという人もいるはずですが、そのニーズにはこたえられていません。

▲NTTの島田明社長は、ドコモも2社と交渉している旨を明かしている

また、ドコモユーザーや楽天モバイルユーザー、さらにはMVNOユーザーにも、副回線サービスがありません。NTTの決算説明会で、ドコモも交渉をしていることが明かされていた一方で、楽天モバイルやMVNOはこの枠組みに入っていないようです。

緊急時のサービスという位置づけ上、大手3社間だけで完結するのはあまりよろしくないような気がします。開発が急ピッチだっただけに完璧を求めることはできませんがサービス内容は継続的に磨きをかけてほしいところです。


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《石野純也》

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慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行う。ケータイ業界が主な取材テーマ。

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