アップルが今年秋の「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」の音量ボタンがソリッドステート式、つまり物理的に駆動部分がない感圧センサー方式になるとの噂は一時有力視されていました。
が、その後に複数の識者が、今年は見送られることがほぼ確実と声を揃えて主張するに至っています。
では、感圧式ソリッドステートボタンはいつ採用されるのか? なぜ、iPhone 15 Proでは見送られたのか? それをアップルの内情に詳しい著名記者が掘り下げて語っています。
そもそもソリッドステート式とは「感圧センサーで指の圧力を検知し、振動を返してクリック感を錯覚させる」ということで、MacBookの感圧タッチトラックパッドと基本的には同じ技術です。
一見すれば組み込むのは簡単にも思えますが、実際にアップルの競合他社がスマートフォンに採用していないことからも、その複雑さと難度の高さはうかがい知れます。物理的な駆動部分をなくせば摩耗するリスクは減り、物理ボタンに伴う開口部がなくなることで防水性能が増すはずですが、それでもなお、ということです。
実際、香港Haitong International SecuritiesのアナリストJeff Pu氏は、サプライチェーン情報筋からの話として「新方式のボリュームボタンは複雑な設計となるため、従来型に戻すかもしれないと聞いた」と証言。また著名アナリストMing-Chi Kuo氏も同様の見解を示していました。
ちなみに、この設計変更により収益に直撃を受けるのは、感圧式を支えるTaptic Engineに深く関わるサプライヤーのCirrus Logicです。同社は株主向けの書簡で「以前、言及した新製品に導入される見込みがなくなった」「このコンポーネントに関する収益を内部モデルから削除した」として、iPhone 15 Proからソリッドステートボタン採用が消えたことを事実上認めています。
さてBloombergのMark Gurman記者がニュースレター最新号で述べていることも、基本的にはKuo氏らと同じです。ただし、もう少し具体的に「iPhone 15 Proテスト機にはまだ新しい(感圧式)ボタンが取り付けられている」としつつ、生産モデルからは「廃棄」されたと述べています。
なぜ、採用が先送りとされたのか。「製造の複雑さ、関連コストの上昇、およびソフトウェア統合の懸念」を挙げています。その一方で、おそらく翌2024年の「iPhone 16 Pro」モデルには採用されるだろうと主張。
iPhone 15 Pro、特に大型のMaxモデルに関してはチタン製でペリスコープ望遠レンズ採用・RAM8GBのぜんぶ載せ仕様に加えて、3nmプロセス製造となる「A17 Bionic」チップのコストも跳ね上がるとみられています。
そのため、上記のPu氏は「(米国価格が1000ドルの大台に乗った)iPhone X以来の値上げ」を予想していました。さらにコストを上乗せすることは、アップルとしても避けたかったのかもしれません。
とはいえ、もう1つの新要素である「アクションボタン」、すなわち従来の消音スイッチが様々な機能を割り当てられるボタンに変更されることは確実だと予想されています。
このアクションボタンに関しては、米9to5Macが信頼できる情報源からの「詳細なCADファイル」に基づいたとして、レンダリング画像を公開していました。もっともソリッドステートとはならず、従来型の物理ボタンとなる模様です。
またアクションボタンは標準モデルとの差別化を図るため、iPhone 15 Proモデルのみに搭載されると予想。少なくともボタン類については、iPhone 15標準モデルはiPhone 14からの変化は全くなさそうです。
少し残念な予想ではありますが、音量ボタンの仕様がスマートフォンの売上や人気に直結するとは考えにくいはず。それよりも、Appleシリコンの製造を一手に請け負うTSMCがA17チップ等を生産する3nmプロセスの歩留まりが伸び悩み、アップルからの需要を満たすのに苦労していると報じられたことが新モデルの懸念材料かもしれません。
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