(参考製品名 「LM-R650J」)
[種類] 光ディスク(書換型)
[記録方法] 相変化記録、レーザー光(780nm)
[メディアサイズ] 124×135×7.8mm
[記録部サイズ] 直径約120mm
[容量] 650MB
[登場年] 1995年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
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「PD」は、松下電器産業が開発した記録型の光ディスク。データ記録に相変化記録技術を採用し、何度も記録・再生できる書換型となっているのが特徴です。
相変化記録とは、高温で溶融させた材料を急冷すると均一の結晶構造を持たないアモルファス(非晶質)、ゆっくり冷却すると結晶質となる特性を用いたもの。アモルファスと結晶質とでは反射率が異なるため、この違いを検出することで、データを再生できるわけです。
同じ書換型の光ディスクにはMO(光磁気ディスク)がありますが、こちらはレーザー光に加えて磁気ヘッドも必要となります。そのため、どうしてもヘッドの小型化が難しく、さらに高コスト化してしまうというのが悩みでした。
これに対しPDは、レーザー光だけでデータの記録・再生できることが強みです。記録時は強いレーザー光を当てて加熱し、冷却速度をコントロールすることで結晶構造を任意に変更。再生時は弱いレーザー光を当て、その反射光からデータを読み取れます。
ヘッドはレーザー光だけでいいため小型化・抵コスト化しやすく、さらに、ディスクのサイズを120mm、レーザー光の波長を780nmといったようにCDと共通化することで、既存の製造技術を流用しやすいという点でも優れていました。
とはいえ、ドライブはともかくメディアも含めたコスト面では、よりシンプルなCD-Rに勝てません。しかし、PDは完全に新しい規格として誕生しているため、データ用として使いやすいよう設計されているのがメリット。とくにランダムアクセス性能、カートリッジ採用による安全性、専用ソフトを使わずファイル単位で読み書きできる手軽さなど、利用のしやすさで大きくリードしていました。
今回はそんなPDのカートリッジを見ていきましょう。
5.25インチMOに近いガッチリとしたカートリッジ
カートリッジは中のディスクを守るためだけあって、かなり堅牢。多少捻ったところでびくともしません。また、アクセスウィンドウには中央まで完全に覆うタイプのシャッターを採用。閉めると前後上下左右どこからも中のディスクが見えず、ゴミやホコリの侵入を強固に防いでくれます。
シャッター左にある四角い枠は、ラベルシールの貼り付け位置。また、左下の赤いスライドスイッチはライトプロテクト用で、左にスライドすると書き込み禁止、右に動かすと書き込み可能です。
裏面を見てみましょう。
表面とほぼ同じですが、左右側面と下部左右に位置決め用の凹みがあるのが特徴。間違えて、裏返したままセットしてしまわないためです。
こうしてみると、シャッターの構造やライトプロテクトスイッチ、下部左右にある切り欠き形状など、結構な部分で5.25インチMOの面影があります。ただし、カートリッジの組み立てがネジ止めじゃなかったり、シャッターが金属ではなく樹脂になっているなど、コンシューマー向けらしいコスト削減も行われています。
PDらしい見た目の特徴といえば、中央下に蛇行した溝があること、下部中央には指でここを摘めと言わんばかりの点が13ほどあるあたりでしょうか。ちなみに、この曲線の溝は均一ではなく、表面は上が深くて下が浅い、裏面は上が浅くて下が深いという微妙な傾斜がついています。これは機能的なものではなく、デザイン的なものだと思われます。
シャッターを開いてみると、ディスクの中央に金属製のハブはなく、穴が開いているだけ。ここはCDと同じです。
ディスク面は、光の反射でセクターの境界を目視可能。この境界は放射状に真っすぐ伸びておらず、ガタガタとしています。これは、PDが採用している制御方式に理由があります。
制御方式はいくつかありますが、比較的シンプルなのが、フロッピーディスクや3.5インチMO(128MB)などで採用されているCAV。1周あたりのセクター数が固定となるため、セクターの境界は真っすぐになります。この方式は、目的のセクターへのアクセスがしやすく、ランダム性能に優れているのがメリット。ただし、外周に行くほどセクターの面積が大きくなり、記録密度が低下してしまうというデメリットがあります。
これに対しZCAVは、各セクターがほぼ同じ面積になるよう、段階的に1周あたりのセクター数を増やしているのが特徴です。セクター数が一定にならないため、境界がガタガタしているように見えているわけですね。ランダム性能は若干犠牲になりますが、記録密度の低下が防げるため、より多くのデータを記録できるのがメリットです。
PDではこのZCAVを採用することで、大容量を実現しています。
なお、回転数は一定(2026rpm)となるため、外周に行くほど線速度は速くなります。PDドライブのスペックではデータ転送速度が518~1141KB/sとなっており、このことからも、内周と外周での速度差がかなり大きいことがうかがえます。
少し不思議なのは、片面メディアなのにアクセスウィンドウが両面に作られていること。わざわざ「Single Sided」と記載されていることも含めて考えると、将来的に両面メディア化する予定があった、と考えるのが自然でしょう。たぶん。
せっかくなので、分解して内部もチェックしてみましょうか。
カートリッジはガイドピンで合わせてあり、このガイドピン部分と周囲数か所が接着されていました。なお、分解中にシャッターを割ってしまったので、両面ともシャッターを閉じた位置に配置しています。
磁気ディスクメディアのように、ディスク面を保護する不織布などは貼られていません。
大きな特徴があるわけではないですが、気になったのが左半身の右下(および、右半身の左下)に3つの丸が並んでいること。カートリッジの表からは見えませんし、補強用のリブとしては形状がふさわしいと思えません。
これ、5.25インチMOなどで採用されていた、メディア種類識別用のホールが検討されていた痕跡ではないでしょうか。ECMAで標準化された規格を見ると、実際には存在しなかったWORM(ライトワンス)も規格に含まれていました。つまり、この部分が貫通していると、ROM(リードオンリー)とか、WORMとか、異なる容量のカートリッジといった識別ができたのではないかな、などと妄想するわけです。
まー、規格に識別用ホールについて書かれていなかったので、ただの妄想なんですけどね。
一番驚いたのは、ネジも接着剤も使わず、はめ込みだけでシャッターが固定されていたこと。最初分からず割ってしまいましたが、分かってしまえばものすごく簡単。頂点にある丸い部分を押し、シャッターを開く方向にスライド。するとツメが外れるので、あとは上に持ち上げるだけです。
たぶん、人生で最も役に立たない知識のひとつだと思いますが、手元にPDのカートリッジがあれば試してみてください。なかなか興味深いですよ。
使い勝手は悪くないものの、書き込み速度の遅さがネックに
1995年当時のリムーバブルディスクは、230MBの3.5インチMO、100MBのZip、135MBのリムーバブルHDDが登場した頃。HDDもようやく1GBに到達したという頃でしたから、PDの650MBという容量がいかに大きかったかがわかるでしょう。
ただし速度はそこまで速くなく、先にも書いた通り、データ転送速度が518~1141KB/s。ベリファイが行われると考えると、実速度はさらに半分になります。キャッシュが効けばそこそこ改善されたようですが、遅いと言われたMOよりもさらに遅い、というのが一般的な認識でした。
とはいえ、当時まだ普及しきっていなかったCD-ROMドライブの代わりになるというのはメリット。CD-ROMドライブではPDは読めませんが、PDドライブがあればPDもCD-ROMも使えるようになるため、内蔵光学ドライブとしては有望です。
実際、その道を示すかのように、松下電器産業のデスクトップPC「WOODY PD」シリーズや、ノートPCの「PRONOTE PD」へと搭載されました。他社でいえば、NECやコンパックもPDを採用したモデルを発売しています。
特にNECはPDへの理解が深く、自社PCへの搭載こそほとんどしなかったものの、ドライブの開発、製造、販売を続けました。末期になりますが、PDやCD-ROMだけでなく、CD-Rにまで対応した「Multi CD-R」(ODX658)を投入。価格の安さもあって、手に入れた人は結構多かったのではないでしょうか。
カートリッジはさらに多くのメーカーから発売されましたが、色や印刷されている文字に違いはあるものの、どれも形状は全く一緒。ほぼすべて松下電器産業の製造で、それのOEMと考えてよさそうです。ケースくらいしか違いがなく、この点、ちょっと集め甲斐がないですね。
PDは、登場時に大容量というアドバンテージがありながら、速度の遅さもあって主役になれませんでした。その後は価格競争でCD-Rに負け、CD-RW登場後は書き換え可能という最大の特徴すら奪われてしまいます。
しかし、だからといってマイナーメディアとしてすぐに消えたわけではありません。650MBという容量はDVD±R/RW/RAMが登場するまで十分現役でしたし、専用ソフトを使わず読み書きできるという使い勝手の良さは健在。メディアも供給量が十分で手に入れやすいとなれば、対応ドライブの価格次第で悪くない選択肢になります。
購入候補の1番手、2番手にはなれないものの、3番手あたりにはひっそりといる感じ。いうなれば名脇役、もしくは、負けヒロインですね。こういった立ち位置だったからか、使ったことがなくても名前は知っている、という人が意外と多い印象です。
また、すぐに消えていくリムーバブルメディアが多い中、実質後継となるDVD-RAM登場後もドライブでPD対応が継続されるなど、手厚いサポートがあったのも面白いところ。某社がゴリ押ししただけじゃないか、って気がしなくもないですけど。
おまけ:
ディスクには、データ記録部の内側に「CAT-1184」みたいな文字が入っています。製造工場やロット、生産時期とかのデータなのかな、とあまり気にしていなかったのですが、1枚だけ、この文字がないカートリッジを発見してしまいました。
いや、正確に言うと文字はあるのですが、何故か手書きなんです。
中古で手に入れたカートリッジですが、利用者がわざわざ書き加えるとは思えませんし、書き加える意味がありません。これ、テスト用やデモ用とかで製造されたものなのでしょうか……。気になるので、知っている方がいましたら教えてください。
参考:
ECMA-240, Data interchange on 120 mm optical disk cartridges using phase change PD format - Capacity: 650 Mbytes per cartridge, ECMA
「CF-32GP」, Panasonic
「PRONOTE PD」, 松下電器産業, WayBack Machine
「DESKPRO XL6150」, COMPAQ, INVERSENET
「ODX652」, NEC
「Multi CD-R」, NEC
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