(参考製品名 「LFD-31U/W」「UFD-01」ほか)
[種類] 磁気ディスク
[記録方法] 磁気記録
[サイズ] 約104×160×22.3mm(UFD-01)
[接続] USB1.1(バスパワー)
[容量] 720KB、1.2MB、1.44MB
[登場年] 1998年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
ロストメモリーズの記事一覧「YD-8U00」はY-E DATA、「FD-05PU」はTEACが開発した、USB接続のフロッピーディスクドライブ(FDD)。独自仕様ではなく、USB-IFの規格に準拠したドライブとして登場しました。
1998年の時点ですでにフロッピーディスク(FD)は時代遅れとなり、あまり使われなくなっていましたが、どのPCにも標準装備されているリムーバブルメディア、という価値が消えるわけではありません。OSインストール用の起動ディスク、緊急起動ディスク、ハードウェアパーツや周辺機器のドライバー提供などでは、変わらずFDが利用されていました。
デスクトップPCであればFDDを内蔵するのは簡単ですが、ノートPCの場合、サイズや重量の問題からFDDを内蔵していないことも少なくありません。この場合は外付けFDDが付属、もしくは別売で用意され、専用インターフェースやPCカードで接続するというのが一般的でした。
同じメーカーであれば使い回せたりもしましたが、基本的には専用品。ないと困ることもあるため持っておきたいですが、ほとんど使わないのに専用品を買わなくてはならないというのは、なんともやるせない気持ちになります。
そこで注目されたのが、USB。USBは1996年に登場したインターフェース規格で、いまでこそ多くの用途で利用されていますが、当初はほとんど使われませんでした。しかし、1998年にUSBを採用したiMacの登場、そしてWindows 98で正式にサポートされるようになると、対応デバイスが数多く誕生しました。USB FDDも、そういったデバイスのひとつです。
FDDでUSBを採用するメリットは、メーカー問わずに複数のPCで利用できること。PCごとに専用品を買う必要がなく、1台あれば、USBを搭載するすべてのPCで利用できるようになります。とはいっても、メーカーごとに仕様の異なるUSB FDDが登場してしまうと、インターフェースがUSBになっただけの専用品と変わりません。
そこで、どのメーカーのUSB FDDでも共通のコマンドでコントロールできるよう、USBマスストレージクラスに「UFI(USB Floppy Disk Interface)コマンドセット」が作られました。
USB-IFにある仕様書を見ると、どうやらUFIコマンドセットはY-E DATAが中心になって策定したようで、AuthorはY-E DATA所属の人が並んでいました。これにTEACが協力し、1998年2月末に発表した、という流れでしょうか。
なお、仕様書の履歴では、ファーストリリースが3月31日。製品開発を先行しつつ、標準化に取り組んでいった様子がうかがえます。
ということで、今回はそんな初期のUSB FDD達を紹介します。
OEMがメインなので、開けてみなけりゃわからない
初期のドライブとなるYD-8U00とFD-05PUはOEMがメインで、PCメーカーや周辺機器メーカーに採用されました。そのため、これらのドライブを探すには、とにかく片っ端から中身を確認するしかありません。
ですが、手がかりが全くないわけでもありません。
USB FDDが主流になった後は、コスト削減や省スペース化のため、インターフェースが最初からUSBになっています。しかし、この初期のドライブはそこまで開発が進んでおらず、一般的なFDDインターフェースのドライブをUSBへと変換しています。つまり、変換基板が入っているぶん、本体サイズが大きくなりがちです。
また、コスト削減が徹底されていないこともあって、ケーブル直ではなく、USB Type-Bコネクターが採用されていることが多いのも特徴です。
ということで、見つけたYD-8U00採用製品がこちら。ロジテックの「LFD-31U/M」です。
なんだかんだ書きましたが、決め手は裏にあるシール。「8U00 R0740824 99/26 BE」とあり、キーワードとなる「8U00」があったことです。USBデバイスなので、今どきのPCに接続しても認識する可能性が高いと思い、Windows 11機に接続したのですが……使えませんでした。
さすがに古いデバイスは故障がつきもの。また、LFD-31U/MはMacintosh用として発売されていたため、Windowsでは利用できないとの記述を発見。そこでもう1台、今度は「LFD-31U」というWindows用モデルを入手し、接続してみたのですが……同じくダメでした。残念。
せっかくなので基板を見ていきましょう。
どちらも「8U00」とあるので変換基板は同じなのかと思いきや、結構違います。一番の違いは、LFD-31U/MにはNECのVFO ICが使われていることでしょうか。ちなみに、裏側はパーツがないので割愛します。
さて、もうひとつのFD-05PUです。こちらを採用している製品で見つけたのが、ヤノ電器の「UFD-01」です。
iMacに合わせたトランスルーセントデザインのおかげで、ぼんやりと変換基板があることがわかったので入手。採用ドライブは不明なままでしたが、PCに接続してみたところ「TEAC FD-05PU USB Device」となっていたので確定です。
基板はサイズを小さくするためか、表も裏もパーツが配置されていました。Y-E DATAの基板では、マイコンとASIC、SRAMがメインの構成でしたが、TEACの基板はUSBレシーバー、マイコン、フラッシュメモリーといった構成のように見えます。
どちらかが開発してもう片方に供給、というのではなく、それぞれ独自に開発している感じがしますね。仕様としては協力しつつ実装は各社で、というのがライバルっぽくて好きです。
ちなみに、USBそのものはWindows 98からサポートされるようになりましたが、標準ドライバーで動作するデバイスは多くなく、USB FDDもドライバーが必要でした。しかし、Meや2000以降は標準ドライバーで動くようになり、使いやすくなりました。
他にもあった!変換基板を使っているUSB FDD
イロイロ集めている間に、他にも変換基板を使っている製品を見つけたので、紹介しておきます。
まずは、アドテックの「AD-IMFD/B」。
MITSUMIの奥行きの短いFDDを採用することで、小型化を実現したUSB FDD。変換基板はMITSUMIによるもののようで、メインのICに「MITSUMI」と刻印がありました。
構成はUSBレシーバー、マイコン、フラッシュメモリーというもので、パーツレイアウトこそ違うものの、TEACとほぼ同じです。
参考にしたとしてもかなり似ており、技術的な協力を得て開発したのではないか、という印象があります。実際どうなのかはわかりませんが……。
もちろん、Windows 11機に接続しても認識され、普通に使えました。
次に紹介するのは、センチュリーの「Generic USB FDD(UD-376)」。これも奥行きが短いミツミのFDDを採用していますが、変換基板が大きいためそこまでコンパクトではないです。
これは基板が見どころ。先のY-E DATA、TEAC、MITSUMIとも違う、完全オリジナルになっていました。
裏面の2つのICがなにか調べたところ、右の「USB97C100」は「Multi-Endpoint USB Peripheral Controller」。データシートをざっと見ると、レガシーデバイス用の疑似ISAインターフェースというようなことが書いてありました。
左の「FDC37C672」は、「Enhanced Super I/O Controller with Fast IR」。こちらもデータシートをざっと見ると、キーボード、シリアルポート、赤外線ポート、パラレルポート、そしてFDDのコントローラーとなっていました。Super I/Oっていう時点で、わかる人にはわかりますね。
つまり、ISAのFDDコントローラー(Super I/O)をUSB接続に変換しているという、ストレートな構成。いいですね、こういうの。残念ながら、Windows 11機では動作しませんでしたけど。
最後は、アクロスの「USB Floppy Disk Drive」。製品型番はドライブに書かれていません。
これもFDDはMITSUMI製を採用することで小型化されています。変換基板はというと、先ほどのセンチュリーと同じくSMSCのICが見えますが、かなり小型化されていました。主なパーツは表面にある「USB97CFDC」とフラッシュメモリーだけです。
「USB97CFDC」のデータシートを見ると、「USB Floppy Disk Controller」というストレートなものでした。どうやらUSB97C100をベースにFDDコントローラーを内蔵し、小型化したもののようです。
そのためか、残念ながらこちらもWindows 11機で動作しませんでした。
なお、NECの「UFD0001」というUSB FDDを分解してみたところ、これに使われているコントローラーもUSB97CFDCでした。こっちはWindows 11機で認識され、利用もできたので、使えるかどうかは製品によるようですね。
レガシーといわれたFDDを延命してくれたUSB FDD
今回紹介したような変換基板を使っているUSB FDDは、初期にしかなかったこともあって数は少なめ。現在でも比較的見かけるのはヤノ電器のUFD-01、UFD-02、UFD-03なので、これらを探すのが近道だと思います。欲しがる人はいないと思いますが……。
ネイティブUSBのFDDなら簡単に見つかるので、USB Type-C化して遊びたい、みたいな変なことを考えるなら、こっちがおすすめです。
1998年に登場した初代iMacがFDDを搭載していなかったのには驚きましたが、よく考えてみれば、すでに当時でもFDはあまり使われていませんでした。起動ディスクとしては使うものの、データの受け渡しをするリムーバブルメディアとしての役割は終えていた……といっても過言ではないでしょう。
とはいえ、官公庁へのデータ提出にFDが指定されることがあったり、古いデータの利用にFDDが必要になったりと、とくに仕事関係では切りたくても切れない、という事情があったのも確かです。
終息に向かうメディアだというのは誰の目にも明らかでしたが、それにも関わらずUSB FDDが設計・製造されたのは、こういった一部の需要を満たすための延命措置だったのかもしれません。
USB化で延命されたとはいえ、用途が限られるのは同じ。なんだかんだですぐに消えるかと思いきや、結構長く生き残っていました。確認できた範囲で調べてみたところ、FDの販売終了はソニーの2011年3月が最後(製造終了は2010年4月)。FDDはTEACが2010年4月に生産終了、Y-E DATAが2011年10月に販売終了となっていました。
ここまで長く使われると変更するのも難しい……というか、変更するという考えもないまま継続利用されるためか、販売終了後も変わらず利用は続いてしまいます。
この状況を打破するため、2022年8月、デジタル庁がFDなどの古い記録媒体の指定を撤廃する方針を表明。2023年6月に、改正関連法が成立しました。メディアやドライブの生産終了から10年以上経ち、ようやくFDも完全引退できそうですね。お疲れさまでした。
参考:
「ワイ・イー・データとティアックが、USBを使ったFDD規格を発表」, PC Watch, インプレス
「ドライバ&マニュアルダウンロード」, ロジテック