目指せ「走るスマートフォン」 ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」が日本でお披露目に(笠原一輝)

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笠原一輝

笠原一輝

テックライター

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PCのライターとしてキャリアをスタートし、今はPC、スマホ、自動車の半導体などを中心に取材して幅広い媒体でニュース記事や解説記事などを執筆している。

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ソニー・ホンダモビリティ株式会社(以下ソニー・ホンダモビリティ)は、2023年10月17日に東京都内で記者会見を開催し、同社のSDV(Software Defined Vehicle)ブランド「AFEELA」(アフィーラ)のプロトタイプ車両を日本で初めてお披露目した。

ソニーとホンダのジョイントベンチャーとして設立されたソニー・ホンダモビリティのAFEELA。三つのA(Autonomy、Augmentation、Affinity)という同社のブランドアイデンティティーを感じてほしい意図から「A」で「FEEL」を挟む形で作られた造語で、2025年の量販車の販売開始を目指して開発が進められている。

公開されたAFEELAのプロトタイプ車両に乗ってみると、それは自動車というよりは「走るスマートフォン」と呼ぶべきユーザー体験が実現された車両になっていた。

日本でもAFEELAプロトタイプが公開。車両そのものはCESで公開されたものと同じだが、ソフトウエアはアップデート

▲ソニー・ホンダモビリティのAFEELAのプロトタイプ、現時点では製品名やコードネームなどはなくただ「プロトタイプ」とだけ呼ばれている

今回日本で公開されたAFEELAのプロトタイプ車両は、本年の1月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された「CES 2023」のソニーブースで公開された車両と同一で、そこからソフトウエア面などで改良が施されたものになる。

プロトタイプ車両にはなるものの、短い距離程度であれば自走は可能になっているとのことだが、もちろん公道などを走らせるにはその国の認証などをうけてナンバーを取得しなければならず、そこまでができる試作車ではない。現状は、同社がAFEELAでどのようなユーザー体験を提供するのかをプレゼンテーションする目的で作られているものであり、この車両を発展させたものを提供するというわけではない。

AFEELAという名称も車名ではなく、ソニー・ホンダモビリティが提供する車両の大きなブランド名となる。ホンダが米国で高級車に使っているACURA(アキュラ)などのブランドと同じようなものだと考えればよいだろう。したがって、将来的にさまざまなバリエーションが出てくれば、「AFEELA XX」という車名になるのかもしれない。

今回展示されていたAFEELAのプロトタイプ車両は、限定された環境でのADAS(先進安全運転機能)レベル3を備えている。ADASの自動運転機能は、メーカーによっても定義が違うのだが、一般的にレベル2以上が何らかの自動運転と考えられており、今現在販売されている市販車に装着されているレベル2ないしはレベル2+では、ACC+と呼ばれるような前の車と一定の距離を取って走行する機能、レーンキープと呼ばれる道路の白線にそってハンドルを維持する機能などが実現されている。

レベル3では、ある特定の条件(例えば高速道路走行時など)下において自動車がドライバーに代わって運転する機能を備えており、限定された条件下での自動運転が実現される。(ただし、現時点ではソニー・ホンダモビリティはその限定された条件が何かは明らかにしていない)

▲QualcommがCESで展示した自動車向けSnapdragonの開発キットやボード

AFEELAの最大の特徴は、これらの機能がSoC+ソフトウエアで実現されていることだ。既にソニー・ホンダモビリティは、AFEELAのSoCに米国の半導体メーカーQualcommの自動車向けSnapdragonを採用すると明らかにしており、今回日本でお披露目したプロトタイプにもQualcommのSnapdragonが採用されているという。ただし、自動車向けSnapdragonのどの世代のチップを採用しているのか、SnapdragonのSoCをいくつ採用しているかなどは明かされていない。

現代の自動車ではメータークラスター、車載情報システム(IVI、日本的に言うならカーナビゲーション)、ADASのシステムなどにも、SnapdragonのようなSoCが採用されており、それぞれに一つ、ないしは複数の機能を一つのSoCで実現するようになっている。そのため、そうしたSoCのどの世代が、いくつ搭載されているかはその性能を占う上で重要な情報だが、現時点では非公開ということだった。

汎用プロセッサ+ソフトウエアの組み合わせでスマートフォンライクなユーザー体験を提供

▲AFEELAプロタイプのコックピット

Qualcommの自動車向けSnapdragonは、基本的にはスマートフォン向けに投入したSnapdragonを自動車向けのスペック(高温や氷点下などの厳しい環境でも動作する仕様やISO 26262などの自動車向けの機能安全規格を満たすこと)にした製品となるため、そうした点を除けばスマートフォン向けのものとほぼ同じSoCになっている。(ただし、スマートフォン向けが最新仕様であるのに対して、そこから数年落ちのスペックであることが通例)

そのためスマートフォンと同じような機能が自動車で実現できるのだ。ただ既に多くのIVIは、Snapdragonや、競合のルネサス エレクトロニクスのR-Car(ArmベースのSoC)などで動作しており、それ自体はもはや珍しいモノではない。しかし、AFEELAではそうしたIVIだけでなく、そもそも自動車のシステム全体がSnapdragonをベースに構築されているのだ。

▲その日の気分に応じてLEDの表示を変えられる
▲スパイダーマンのコンテンツをLEDに表示させたりもできる

例えば、AFEELAプロトタイプの前面と背面にはLEDベースのディスプレーが用意されており、車内のIVIなどで変更することが可能になっている。今日はスパイダーマンの気分という時にはスパイダーマンにするなどのカスタマイズが可能になっている。言ってみれば、スマートフォンの壁紙を変える気分で自動車の外装を変えていくようなものだ。また、同じ事はメータークラスター(スピードメーター)の表示でも可能。スパイダーマンにしたり、FORTNITEにしたり……。そうした設定を簡単に変更できることがAFEELAプロトタイプの特徴となっている。

▲ドライバーが近づくと充電の状況が表示される
▲車体の横にはドライバーやパッセンジャーを認識するためのカメラが用意されている
▲ドライバーを認識すると自動で運転席側のドアが開く(左ハンドル車であるため左側のドアが開いている)

また、ドライバーが車両に近づくと、センサーがそれを認識して充電状態を表示し、サイドにあるカメラがドライバーを認識して自動でドアを開閉してくれる。こうした従来の自動車にはなかったようなユーザー体験を実現していることも特徴だ。

▲ハンドルは最近流行し始めている上側が切れているハンドル。画面の見やすさを考えてこうしたデザインになっているという
▲ソニーの360 Reality Audioに対応している
▲シートやドアなど、そこかしこにスピーカーが用意されている
▲センターに用意されているホイールデバイス。運転時にはタッチディスプレーなどは操作しにくいので、こうしたデバイスも用意されている
▲PlayStation 5のリモートプレイ機能も用意されている

内部に目を向けると、ソニーのエンターテインメント機能を搭載していることも特徴だ。ソニーの「360 Reality Audio」(サンロクマル・リアリティ・オーディオ)を標準搭載しており、音源一つ一つに位置情報をつけ、その位置で再生できる。AFEELAプロトタイプには、車両の各所にスピーカーが搭載されており、前面にも、足元にも、サイドにもスピーカーが搭載されていて、360 Reality Audioでオーディオの再生を楽しめる。また、PlayStation 5のリモートプレイ機能も用意されており、インターネットを経由して自宅のPS5に接続してゲームを楽しむことが可能だ。(もちろんドライバーはプレイできない)

このように、ソニー・ホンダモビリティが今のAFEELAプロトタイプで見せているのは「走るスマートフォン」そのものだ。このプロトタイプそのものは製品化されるようなものではなく、同社の潜在顧客(ディーラーなど)に見せるためのもので、今はそのフィードバックを受けて、2025年に投入する実際の市販車に向けてさまざま開発を行なっているという。

言ってみればこれは壮大なストーリーの予告編に過ぎないということだ。その意味で2025年に投入されるソニー・ホンダモビリティの「走るスマートフォン」がどのように進化し、どのような実際の製品になるのか、その点は今後も要注目だ。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《笠原一輝》

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