(参考製品名 「CM2」)
[種類] フラッシュメモリー、DRAM、ROM
[記録方法] 専用端子(60+3ピン)
[メディアサイズ] 38×33×3.5mm
[記録部サイズ] ----
[容量] 1MB~16MB
[登場年] 1995年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
ロストメモリーズの記事一覧「ミニチュアカード」(Miniature Card)は、PCカードスロットを搭載するのが難しい小型機器をターゲットとした汎用メモリーカード。1995年にインテルが開発し、1998年2月にPCMCIAによって規格化されました。
1995年というと、コンパクトフラッシュとスマートメディアが登場するちょうど間くらいの時期。PDAやデジカメ、ボイスレコーダーなど、小型のデジタル機器が次々と誕生していたこともあり、記録メディアにも小ささが求められるようになってきた頃です。
ミニチュアカードの強みは、フラッシュメモリーを使った記録メディアだけでなく、DRAMを搭載したメモリー増設用カードもラインアップされていたこと。ほぼ同じ形状で、SIMMのようなメモリーモジュールとして使えたわけです。
これの何がいいかといえば、部品の共通化でコストを抑えられること。機種を問わずDRAMが増設できるとなればカードの低価格化が期待できますし、ユーザーによるスペックアップも手軽にできるというメリットがあります。
実際、PhilipsはWindows CE 1.0機のVelo 1(日本未発売)へ4MBのDRAMモジュールを割り引き提供し、Windows CE 2.0へのアップグレード後も快適に動作するスペックにできるようにしていました。
ミニチュアカードの容量上限は、規格上は64MB。ただし、リリース情報などをチェックしている限り、製品としては存在したであろう容量は、フラッシュメモリー/DRAM共に16MBまでだったようです。
そんなミニチュアカードを見ていきましょう。
柔らかいエラストマーを使ったユニークな接続
パッと見はコンパクトフラッシュのようにも見えますが、若干小さく、端子部も丸出しになっているため、ひと目で違うものだと分かります。
ユニークなのは、ラベルに対して下の方、正面方向に3つの端子が配置されていること。これは左からGND、CINS、Vccとなっていて、信号端子とは独立して並んでいます。GNDとVccは電源用、CINSはカードの挿入検出用です。
正面にはこの電源周りの端子だけでなく、2つの切り欠きがあります。中央にある切り欠きはただのガイドですが、実は右の方は、位置と形状で対応電圧がわかるようになっています。
仕様書によると、切り欠きの種類は全部で6種類。5V専用、3.3/5V両対応、3.3V専用、x.x/3.3V両用、x.xV専用、x.x/3.3/5V全対応です。「x.xV」というのは将来の拡張用でしょうか。たぶん、1.8Vあたりの低電圧が考えられていたと思われます。
ホストとあるのが、コネクターというかソケット側です。例えば5V専用のソケットに3.3V専用のミニチュアカードを挿そうとすると、1の部分がぶつかって物理的にカードが挿せません。ユーザーによる交換が想定されていただけあって、しっかり考えられています。
ちなみに、今回紹介しているミニチュアカードは3.3/5V両対応となるため、図でいうところの1~3までカットされているカードとなります。
また、物理的な形状の違いでいうと、DRAMのミニチュアカードは少し形が違います。具体的にどう違うかというと、ラベルに対して上の方、左右側面に小さな耳がついています。また、裏面も角が凹んでいます。
仕様書の図から抜粋していますが、この形状の違いによって、間違って挿してしまわないよう区別されています。
実物を見せられればよかったのですが、残念ながら未入手。ebayで何度か出品されてるのは確認していますが、手が届く価格ではなかったため断念していました。引き続きチェックし続けたいと思います。
気を取り直して、接続部に注目してみましょう。
コンパクトフラッシュは針状の金属ピンを突き刺すような方式、スマートメディアはパッドに金属ピンを押し当てる方式を採用しています。
これに対してミニチュアカードは、柔らかい導電性のエラストマーを使った端子をパッドに押し当てるという、ユニークな方式を採用。ピン曲がりがない、面で接するので接続不良が起こりにくい、といったメリットがあります。
エラストマーをよく見るとシマシマになっていますが、これは導電性と絶縁性のものが交互に並んでいるため。全て導電性だとショートしてしまいますが、絶縁性のものと狭ピッチで交互に並べることで、ショートの心配なく使えるようになるわけです。
なお、いくら導電性があるといっても抵抗値は高くなるため、電源やGND周りに使うのには向いていません。おそらくこの理由から、電源周りの3ピンと信号とを分離したのではないかと考えられます。もちろん、信号と離すことでパターンを太くしやすい、引き回しやすい、ノイズ対策しやすいといったメリットもありそうですけどね。
コントローラーのないシンプルな構成
フラッシュメモリーだけでなくDRAMにも対応させるためか、ミニチュアカード内には高度なコントローラーは搭載していません。インターフェースの信号は、基本的にデータ、アドレス、制御信号が並んでいるだけで、制御はホスト側から行う方式です。
フラッシュメモリーとDRAMでは読み書きの手順が大きく異なり、同じソケットで両対応するのは難しいところ。また、仮に両対応できたとしても、バスラインが共通だとフラッシュメモリーの速度が足を引っ張り、DRAMへのアクセスが遅くなってしまいます。
これらを解決するには、異なる系統のバスラインを用意し、それぞれ切り替えて使うというのが理想でしょう。ですが、ミニチュアカードのソケット毎にそんなことをしていたら、バスラインを引くだけで基板が大きくなってしまいます。
それなら、PhilipsのWindows CE機であるVelo 1やVelo 500のように、DRAMとフラッシュメモリーそれぞれに専用ソケットを用意するほうがスマートです。
ここでふと思うのが、どうせ専用にしかならないなら、ミニチュアカードでなくてもいいのではないか、ということ。とくにこの時代のPDAは黎明期で、形態が大きく変化していた頃。小型化や高速化が目覚ましい時代でしたから、設計の自由度が減る割にメリットが少ないミニチュアカードは、積極的に採用する理由がありません。
フラッシュメモリーを使う場合で考えると、どうせホストからの制御が必要となるなら、より低価格なスマートメディアで十分。また、拡張性を重視するなら、汎用拡張スロットとしても使えるコンパクトフラッシュの方が魅力です。
唯一のメリットともいえるDRAM対応も、古くて遅いDRAMミニチュアカードを使われてしまうと、速度面で足を引っ張られてしまいます。何より、互換性を確保するコストもバカになりません。
頑張って互換性を確保し、サイズが大きく速度が遅い新モデルを出しても売れはしないでしょう。それなら、ミニチュアカードにこだわらず、小さく速いモデルを作るほうが賢明です。
結局、ミニチュアカードを採用する機器はごく一部に限られ、PDAではPhilipsの「Velo 1」「Velo 500」、デジカメではコニカの「Q-EZ」、ボイスレコーダーではオリンパスの「D1000」くらいでしか使われませんでした。
なお、一般向けの製品でなければ、Ciscoのネットワーク機器でも採用されています。ただし名称はミニチュアカードではなく、「Mini-Flash module」ですけどね。
参考:
「Miniature Card Primer」, PCMCIA, Wayback Machine
「Miniature Card Specification Adopted by PCMCIA for Small Flash Memory Card Standard」, PCMCIA, Wayback Machine
「Miniature Card Specification 1.1」, MCIF, Wayback Machine
「MGV First to Offer Miniature DRAM Cards for Philips Velo Handheld Computer」, EE Times
「PHILIPS ANNOUNCES VELO 1 HARDWARE UPGRADE PROGRAM IN PREPARATION FOR MICROSOFT WINDOWS CE 2.0 FOR THE HANDHELD PC」, Philips, Wayback Machine
「Voice-Trek VT1000RV」, オリンパス
「Q-EZ」, コニカ, Wayback Machine
「Installing and Upgrading Memory in Cisco 1700 Series Routers」, Cisco