ソフトバンクが「実質価格」を抑えたスマートフォンの販売方法を強化して話題を集めています。
なかでも、ハイエンドモデルとして発売されたシャオミの「Xiaomi 13T Pro」が、発売初日からいきなり実質24円になったインパクトは大きなものでした。
モトローラの「razr 40s」も、フォルダブルスマホでありながらいきなり実質1万円以下に。競合の多いグーグルの「Pixel 8」も、実質価格は抑えています。
仕組みは簡単。「新トクするサポート」という下取りを前提にしたアップグレードプログラムをフル活用します。
このプログラムでは、端末を48分割で支払います。その後半部分である24回分を、端末の下取りで免除するという仕組み。残価設定ローンのような仕組みを取っているドコモやKDDIよりも、ズバッと半分をチャラにするシンプルな売り方と言えるでしょう。
ただし、実際にはこれが半分ではないのがポイント。48分割が不均等になっていることで、実質価格を抑えることが可能になります。考え方は非常に単純で、支払いを後半に集中させ、それを免除すれば実質価格は下げられます。
2年後には、端末を売るかそのまま高いローンを払って使い続けるかの選択ができますが、お得に買い替えるなら、前者を選択した方がいいでしょう。
実質24円のような売り方をする場合、ここにMNPなどを条件にした2万円近い割引を組み合わせています。Xiaomi 13T Proが、実質24円になるのもこのようなケース。
一方で、機種変更でもその割引がないだけで、実質価格は2万円強になります。ハイエンドモデルとしては、かなりお手頃。トラップは下取り忘れぐらいなので、ほしいと思ったら飛びつくのが正解です。
ソフトバンクが意図的に価格を下げているのは、高機能ながら最上位モデルではないような端末。本体価格で言うと、10万円台前半のもの。廉価ハイエンドに位置づけられるシャオミのXiaomi 13T Proは、まさにそのような1台と言えるでしょう。
グーグルのPixel 8も同様。razr 40sはスペックこそミッドレンジですが、フォルダブルにしては低価格で、最上位モデルではない点も共通しています。
推測ですが、いくら端末を下取りしているとはいえ、20万円を超えているようなハイエンドモデルだと、なかなか実質価格を抑えづらいのかもしれません。また、本体価格が高いと、一般的な中古の下取りを多少盛ったところで、実質24円のようなところまでは下がりません。
ある程度インパクトを出すことを踏まえると、10万円台前半の値ごろ感のあるハイエンドモデルに、こうした販売方法を取りやすかった可能性があります。
端末購入補助が法令で2万2200円に制限されているなか、なんとかして実質価格を抑える方法は各社が編み出してきました。当初は、本体価格に割引をつけるという方法が主流でした。本サイトで記事にしたように、筆者もそれでKDDIから「Pixel 7」を購入しています。
現行法では、端末そのものを値引くぶんにはいくら割引をしようが問題ないからです。ただ、端末単体の割引という建付けにするには、回線契約をしていないユーザーに同額で販売しなければなりません。
必然的に、こうした割引を積み増した端末は、転売ヤーの餌食になってしまいます。箱に名前を書いたり、システムに登録して1人1台に制限したりとさまざまな対策が講じられてきた一方で、抜け穴はあります。
キャリアにとっても、回線契約のないユーザーが殺到するだけだと、利益につながりづらくなります。新トクするサポートのようなアップグレードプログラムを組み合わせた実質価格での販売は、これに対する回答の1つです。
まず、割賦での販売で下取りを前提にしているため、基本的に転売には向きません。手元に端末がないと、後半24回の高い分割金を払う必要が出てくるからです。
持ち逃げされてしまうリスクはありますが、そこは審査やブラックリストの運用をきちんとしていけば問題ないでしょう。一方で、きちんと端末を使いたいユーザーは、安価に性能のいい端末を選択できるのがメリットです。
キャリアは契約者の獲得ができます。端末本体の割引と見なす必要があるため、アップグレードプログラムは回線契約がなくても利用できるものの、現状では他キャリアのユーザーが使うことはまれでしょう。MNPなどをすればプラスαの割引を受けられることもあり、単体での購入は非常に少ないはず。
19年の電気通信事業法改正から模索し続けてきただけあって、転売を防げて、かつユーザーにおいしく、キャリアにとってもメリットのある仕組みに仕上がっています。
ただ、ソフトバンクに限らず、実質価格は今後上がってしまう可能性もあります。12月27日に電気通信事業法が改正され、ガイドラインも変わるからです。
新ルールでは割引が4万4000円までOKとざっくり伝えられていますが、実は回線とのセット販売では、端末単体の値引きにも制限がかかります。アメとムチということで、割引できる金額は上がる一方で、その中身が制約されるというわけです。
新トクするサポートのような残債を免除するプログラムも、中古店の下取り額より免除額が高いようなときにはユーザーへの利益供与と見なされます。実質24円や実質1万円以下の端末は、免除する金額がモリモリに盛られているため、MNP割引と合わせると4万4000円は超えてしまいそう。
少なくとも、そのリスクが高まった状態では、キャリアも極端な販売はしづらくなりそうです。実質価格が安い端末は残ると思いますが、今までのようなインパクトはなくなってしまいそうなのが残念でなりません。