(参考製品名 「CE-70F」)
[種類] 磁気ディスク
[記録方法] 磁気記録
[サイズ] 129.6×223.5×39.5mm
[接続] 専用端子(8ピン4芯)
[容量] 720KB
[電源] DC12V/4.3W
[登場年] 1989年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
ロストメモリーズの記事一覧「CE-70F」は、シャープが開発した電子手帳専用の外付けフロッピーディスクドライブ(以下、FDD)。プリンター、カセットレコーダーといった周辺機器のひとつとして登場し、2DDの3.5インチFD(マイクロフロッピー)が使えるというのが特徴です。
電子手帳は、アドレス帳、スケジュール帳、メモ帳、カレンダー、電卓といった機能を備えた、個人情報管理ツール。後にPDAへと進化するデバイスで、紙の手帳では管理しきれない多くの情報を手軽に、素早く扱えるのが魅力でした。
とくに1987年に発売されたシャープのPA-7000は、漢字対応、複数行表示、ICカードによる機能拡張など、かなり意欲的な製品として登場。プログラミングに興味がある人達が選んでいたポケコンとは違った、一般層向けのデジタルツールとして人気を集めました。
そんな電子手帳ですが、管理できるデータが多いということは、失った時のダメージも大きいということ。それだけに、データのバックアップは重要です。
シャープの電子手帳では、登場時からデータバックアップ用としてカセットレコーダーがオプションで用意されていましたが、より使い勝手のいいデータ保存先として登場したのが、3.5インチFDドライブとなるCE-70Fです。
1980年代半ば以降は、家庭向けのワープロ機がヒットしたこともあり、PCで使われていた3.5インチFDが身近になってきた頃。そんな時代ですから、カセットテープに替わるリムーバブルメディアとして、3.5インチFDが選ばれたというのは納得できますね。
ゴムベルト駆動のFDドライブを採用
3.5インチFDの登場からだいぶ時間が経っていたこともあり、CE-70Fで採用されているFDドライブは、1インチハイトの一般的なタイプです。幅も高さもドライブに合わせたサイズでスマートですが、インターフェース変換があるため、さすがに奥行きは223.5mmと長めです。
電源は12V/1.3AのACアダプター。よく見るとセンターマイナスなので、代替品で使う場合は注意が必要です。また、スイッチング電源ではなくトランスでの電圧変換のようで、ACアダプターがめちゃくちゃ重たいです。
試しに計ってみたら、約684g。スマホどころか、富士通の14.0型ノート、WU-X/H1(約689g~)とほぼ同じでびっくりしました。今だと20W以下のUSB充電器(スイッチング電源、ケーブルなし)なら50gくらいですから、技術の進歩ってすごいですね。
インターフェースは当然ですが、専用。上下4ピンずつの8ピンあるように見えますが、上下とも同じ信号となっているようで、実質4ピンと同じです。確認のため、上側を紙で覆って絶縁した場合と、下側を絶縁した場合の両方で電子手帳と接続してみましたが、どちらの場合もFDドライブを認識しました。
ちなみに、この確認に使った電子手帳はPA-8600。最初からCE-70Fに対応しているモデルとなります。せっかくなので、この電子手帳でFDを使ってみましょう。
使い方は簡単で、CE-70Fを電子手帳とケーブルで接続し、電源をオン。そして電子手帳の「入」ボタンを押し、データ保存が可能な「メモ」や「電話」といった機能に切り替えます。あとは「機能」キーを押し、「オプション」を呼び出せばFD操作のメニューが表示されます。
まずはFDをフォーマットしないと使えないので、「ファイル処理」を開き、さらに「初期化」を選んだのですが……エラーが出て終了してしまいます。
ドライブを軽くゆすってみると、なにか小さな破片が入っているかのような、カラカラという音が……。ということで、分解です。
分解は底面のネジ4つを外すだけ。すると上半分が外れて中身が見えます。ドライブは「EME-213SK」で、松下電子部品製。調べてみると、MSXやワープロ、電子楽器などで採用されることが多かったモデルのようです。
このドライブを持ち上げてみると、黒くて細いゴミがごちゃっと出てきました。そう、これがエラーの原因のひとつ、劣化して切れたゴムベルトの破片です。
このドライブは、ディスクの回転をモーター直ではなく、ゴムベルトを使って離れた位置から行っています。このゴムベルトが切れ、回せなくなっていたわけですね。
折径90mm×幅3mmのモビロンバンドがちょうど良さそうだったので、ゴムベルトの残骸を除去したあとに装着。するとモーターの回転をいい感じに伝えてくれ、FDが回るようになりました。
今度こそと電子手帳と接続して初期化を試しましたが、やはりエラーが出てしまいます。ドライブの様子を確認しながら試してみると、どうもヘッドが動いていないようです。
といってもヘッドは固着しておらず、運がいいと5トラックくらい動きます。ヘッドを動かすモーター、もしくはそのドライバーあたりの故障でしょうか。ちなみに、エラーが出る前に回転数が不安定になっているような気もするので、交換したベルトが合ってない可能性もあります。
これ以上は原因を追うのが大変そうなので、とりあえず諦めました。
古い時代の微妙な機器は情報が少ない
実は、CE-70Fの登場年が調べてもよくわからず、冒頭の情報にある登場年は推測です。といっても、根拠がないわけではありません。
根拠の1つ目は、マニュアルに記載されている対応機種。電子手帳はPA-6000、PA-6500、PA-7000、PA-8500が記載されており、このうち、PA-7000とPA-6000は1987年発売。PA-6500とPA-8500は1988年発売となっていることです。これにより、少なくともCE-70Fの登場は1988年以降だということがわかります。
さらに、個人売買サイトに掲載されている画像から製造年月を探してみると、最も古いものはPA-6500で1988年3月、PA-8500で1988年9月というのが確認できました。さらに古い製造の個体がある可能性もありますが、CE-70Fの登場は1988年9月以降である可能性が高いです。
根拠の2つ目は、後継機となるPA-7500やPA-8600は1989年発売で、こちらはCE-70Fのマニュアルに記載されていないこと。つまり、CE-70Fの登場時には存在していなかった、と考えるのが自然でしょう。同様に製造年月を探してみると、PA-7500が1989年10月、PA-8600が1989年12月というのが確認できました。
つまり、CE-70Fの登場は、1988年9月~1989年10月の間のどこかと推測できます。オプションが単体で登場するのはあまり聞かない話なので、1988年9月のPA-8500と同時の登場かなと考えられるのですが、ここで疑問が。
CE-70Fのマニュアルを見ると、PA-8500にはFDを使う機能がありません。CE-70Fを使う場合は、カセットやプリンターとして扱うわけです。
CE-70FがPA-8500と同時であれば、当然、PA-8500はFDに対応していると考えるのが自然。となると、同時登場説は怪しくなってきます。
結局、1988年9月~1989年10月までしか絞れないか、と半ば諦めてたのですが、ふとCE-70FのACアダプターを見ると、DATEとして「890524」とあるじゃないですか。これはもちろん、1989年5月24日のことでしょう。
電子辞書は当時かなり売れていたものの、たぶん高価で微妙に使い勝手の悪いオプション品のFDDが、短期間で再生産されるほど数が出たとは思えません。実際、個人売買サイトの出品を見ていても、結構レア。絶対数は少ないと考えられます。
この点を考慮すれば、CE-70Fの登場はACアダプターの製造後、1989年5月以降である可能性が高そうです。ということで、登場年を「1989年頃~」としました。
なお、画像検索で粘ってみたところ、どうやら1989年4月のカタログにはCE-70Fがなく、1989年10月のカタログにはCE-70Fが掲載されているようでした。画質が荒く細部がよく見えなかったので違うかもしれませんが、推測はわりといい線いってそうですね。
ちなみに、シャープの電子書籍ストア「COCORO BOOKS」でカタログが無料で公開されてるのですが、残念ながらPA-7000(1987年)のものしかありませんでした。おしい。
参考:
「SHARP CE-70F」, Kyoro's Room
「電子システム手帳 <PA-7000>」, シャープ
「電子手帳 PA-7000」(カタログ), シャープ, COCORO BOOKS