(参考製品名 「iVDR-20」)
[種類] HDD
[記録方法] 磁気記録(26ピン)
[メディアサイズ] 80×67×10mm
[記録部サイズ] 直径約48mm
[容量] 20GB
[登場年] 2004年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
ロストメモリーズの記事一覧「iVDR mini」は、キヤノン、富士通、日立製作所、フェニックステクノロジーズ、パイオニア、三洋電機、シャープ、日本ビクターの8社によって設立された「iVDRハードディスクドライブ・コンソーシアム」で策定されたリムーバブルHDD規格のひとつ。移動して利用することが前提となるため、HDDでありながら900G以上の耐衝撃性(非動作時)が確保されているのが特徴です。
「iVDR」はInformation Versatile Disk for Removable usageの略で、AV機器からPCまでの幅広い用途で利用できるリムーバブルHDDを目指した規格。団体発足時の2002年は、まだSATAが普及していなかったこともあり、2.5インチのIDE HDDを使った50ピンのコネクターをもつ規格として考えられていました。
しかし、2003年になるとSATAのHDDが登場したこともあり、iVDRにも2.5インチのSATA HDDを追加。さらに、より小型の1.8インチHDDも追加し、コネクターの仕様をSATAに合わせた22ピンへ小型化しました。この時点で、従来の「iVDR parallel」、SATAの2.5インチHDDを採用した「iVDR」、そして、1.8インチHDDを採用した「iVDR mini」という、3つの仕様に増えています。
ただし、この時点ではまだ策定中で、製品は登場していません。
2004年になるとiVDR parallelはキャンセルされたのか、仕様から消えました。その代わりではないですが、新たに1インチHDDを採用する「iVDR micro」を追加。また、著作権保護機能となる「iVDR-Secure」の策定を開始し、AV機器で本格的に採用できる状況を整え始めました。なお、コネクターは22ピンから26ピンへと変更され、これが実際の製品でも採用されています。
団体発足からここまで2年が経っていますが、発表会などで展示している製品は開発中のものばかり。いつ製品が出るのかと思いきや、2004年の仕様が発表になった直後に、ようやくアイ・オー・データ機器から世界初のiVDR規格に対応した製品「iVDR-20」が発売されました。
最初に登場したiVDR-20は2.5インチHDDのiVDRではなく、1.8インチHDDのiVDR mini。しかもiVDR-Secureはオプションとなるため対応せず、あくまでPC向けの製品という位置付けです。
ということで、このiVDR mini規格のリムーバブルHDDを見ていきましょう。
コネクターはSATAを内包した独自規格
iVDR-mini規格のサイズは80×67×10mmで、リムーバブルHDDとしてはかなり小型。中身の1.8インチHDDのサイズが大体70×60×7mmですから、本当にプラスチックケースで保護しただけという構成です。
製品のリリースには「MDケースサイズ」と書かれていましたが、今となってはサイズ感が分かるような分からないような表現になっちゃいましたね。
左右2か所にある凹みは、ロック機構用溝。ここにツメを引っ掛け、簡単に抜け落ちないよう固定されます。
側面の凹みはガイドレールで、アダプターやスロットに差し込んだ時、これをガイドに正しい位置へと導かれるようになっています。
ちなみに、裏の方にも左右2か所ずつ小さい凹みが作られていますが、これもロック機構用溝です。
裏面もシンプルで、左右2つずつのロック機構用溝が見える以外はこれといった特徴はありません。強いて言うなら、ケースを止めている4本のネジがプラスでもトルクスでもなく、Y字の特殊ネジになっていることくらいでしょうか。
せっかくなので分解。ネジを外してコネクター側から引き上げると、簡単に開きます。
中身は1.8インチHDDそのままが入っているだけ。コネクターもHDDから直に生えている、iVDR mini専用のHDDとなっていました。
ちなみにこの26ピンのコネクターは片面。電源、ID、SATAが内包されており、これ1つで接続が完結するように作られています。詳しいピンアサインはハードウェア規格概要を見るとわかるので、気になる人はチェックしてみてください。
興味深いのは、2004年当時の1.8インチHDDのインターフェースは、基本的にIDE(パラレルATA)だったこと。コネクターは2.5インチと同じ44ピン(HGST)、もしくは、PCカードっぽい44ピン(東芝)で、ZIFやLIFといったフィルムケーブルを使うタイプもありました。
少し探してみましたが、東芝がSATAを採用した1.8インチHDDを発売したのが、2008年。HGSTからは、SATAを採用した製品の登場時期が見つけられませんでした。
つまり何が言いたいかというと、少なくとも2004年当時、iVDRへ流用可能なSATAの1.8インチHDDが存在していなかった、ということです。
では、どうやってSATAをベースにしたiVDRを実現したのでしょうか。あまりにも気になってしまったので、復元可能な範囲で中身のHDDを分解、基板を観察してみました。
大きく4つのICが見えます。データシートが出てこないので乏しい経験と勘で適当に判断してみますが、左上がメモリー、右上がIDE HDDコントローラー、左下がモーター周りのコントローラーです。たぶん。
「MC80」というハンコが押してある右下は何だろうと見てみると、「ARM」という文字が見えました。
IDEを採用したHGSTの1.8インチHDDの基板も見てみましたが、このARMプロセッサーとメモリーが載っていませんでした。おそらく、このARMプロセッサーでIDEとSATA……というかiVDR変換を行っているのではないでしょうか。存在しなければ作ってしまえ、という気概を感じます。
USB接続アダプターがなければ使えない!こちらにも苦労の跡が
いくらiVDR miniのリムーバブルHDDがあっても、これ単体では何も使えません。PCへと接続するなら、アダプターが必要となります。
このiVDR-20と同時にアイ・オー・データ機器から登場したのが、USB 2.0接続のアダプターとなる「USB2-iVDR」。収納可能な短いUSBケーブル付きで、USB 2.0外付けHDDとしても手軽に使えるようになっていました。なお、当初はiVDR-20とのセット販売のみでしたが、翌年、単体でも発売されました。
iVDR-20を挿すとわかりますが、上側に結構な隙間が空いてます。不格好に見えますが、これはこのアダプターがiVDR mini専用ではなく、2.5インチHDDを使ったiVDRにも対応するから。iVDRとiVDR miniは26ピンのコネクターが共通なので、こういったことが可能です。
USB 2.0接続だというところからわかる通り、このアダプター内でiVDRからUSB 2.0へと変換されています。SATAからUSB 2.0へ変換するコントローラーが使われているんだろうなと思いつつ分解してみると……ちょっとだけ予想と違っていました。
右にあるのはMarvellの「88i8030-TBC」で、これはIDEとSATAのブリッジ。もうひとつのICはワークビットの「D8927GC-002」で、USB 2.0対応のIDEブリッジとなります。つまり、SATAをIDEに変換し、そのIDEをUSB 2.0に変換しているわけです。
まだSATAからUSBへ直接変換できるICがなかった、もしくは、あっても高価だったための苦肉の策でしょう。初期の製品にありがちな苦労が偲ばれます。
しかし、元のHDDから辿ってみると、IDE HDDをSATA(iVDR)に変換、SATA(iVDR)をIDEに変換、IDEをUSB 2.0に変換という、ものすごく面倒なことになっています。これでよくエラーなしに動いたものだと、感心してしまいますね。
そんなこんなでようやく登場したiVDR規格のリムーバブルHDDですが、アイ・オー・データ機器以外から製品がなかなか出てきません。多くの機器で汎用的に使えるメディア、というのがウリだったのに、PCでしか使えないという悲しい状況です。
アイ・オー・データ機器は、翌年の2005年に2.5インチHDDを使った40GBと80GBモデルを投入していますが、やはりPC専用状態。こうなると、単なる割高な外付けHDDとなってしまうだけに、爆発的に売れることも人気となることもありません。
結局、2007年にiVDRへの録画に対応したテレビが登場するまで、細々とPC用として続けるしかありませんでした。
なお、iVDR mini規格の製品は、容量の小ささ、価格の高さ、用途が開拓されなかったということが絡み合った結果なのか、このiVDR-20しか発売されなかったようです。
参考:
iVDRについて(2003), iVDRコンソーシアム, WayBack Machine
iVDRについて(2004), iVDRコンソーシアム, WayBack Machine
iVDR-20, アイ・オー・データ機器
iVDRハードディスクドライブ-ハードウェア規格概要-(1.8型Serialタイプ), iVDRコンソーシアム, WayBack Machine
iVDR規格/仕様, iVDRコンソーシアム, WayBack Machine
USB2-iVDR, アイ・オー・データ機器
USAT-3, ワークビット, WayBack Machine
iVDRの動向と技術, シャープ
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