マイクロソフトはアクティビジョン・ブリザードを買収後も『Call of Duty』(以下「CoD」)シリーズをPlayStationに提供し続ける「拘束力ある契約」を、ソニーと締結しました。
マイクロソフトがアクティビジョン買収計画を2022年1月に発表して以来、両社が繰り広げてきた激しい戦いも終わりが近づいてきたようです。
この契約締結は、Xbox事業トップのフィル・スペンサー氏がTwitterで表明し、マイクロソフト副社長のブラッド・スミス氏も引用ツイートしています。
マイクロソフト側の声明では契約期間に言及がありませんが、Xbox広報責任者のカリ・ペレス氏が10年間であると認めています。また、この契約はCoDシリーズのみに限られ、他のアクティビジョン製タイトルは含まれないとしています。
これはマイクロソフトが任天堂と締結した「CoDのみ」の10年提供契約と似ている一方で、NVIDIAやその他のクラウドゲーミングサービスとの「CoDを含む」アクティビジョンやXboxタイトルの提供契約とは異なっています。ハードウェアの異なるゲーム専用機ごとのネイティブ移植と、基本的に共通のゲームを供給するクラウドゲーミングとを切り分けているのかもしれません。
Xboxトップのスペンサー氏は2022年1月、ソニーに対して「2027年12月31日まで、CoDフランチャイズ(続編や派生作品)の将来バージョンや、ほか現存するアクティビジョン・フランチャイズを含め、全ての既存アクティビジョン・コンソール(家庭用ゲーム機)タイトルをソニーに提供し続ける」ことを含む提案をしていたことが、法廷に提出されたメールで明らかにされていました。
つまり、当初の「全アクティビジョン製タイトルを提供、ただし2027年末まで」という内容から、「CoDフランチャイズのみ今後10年(買収が2023年内に成立とすれば、2033年まで)」に変更されたわけです。タイトルが絞り込まれた代わり、期限が延長された格好です。
なぜ、初めは「2027年まで」とされていたのか。それはマイクロソフトが英競争市場庁への回答で「次世代ゲーム機の発売は、早くても2028年秋以降になると予想される」と述べていたことから、おそらく次世代機の「PS6」にCoD新作を供給する義務を課されたくなかったためでしょう。
今回のCoD10年提供契約は、すでに昨年末マイクロソフトがソニーに提案していました。が、ソニーは首をタテに振らず、「意図的にPlayStation版CoDを劣化させる可能性がある」と主張。そのために、ゲーム映像の徹底的な検証で知られるDigital Foundryの影響力を強調する一幕もありました。
しかし、米連邦取引委員会(FTC)対マイクロソフトの裁判中に、資料としてSIE(PlayStation事業)トップのジム・ライアン氏からのメールが公開。元SCEヨーロッパ(SCEはSIEの前身)社長クリス・ディアリング氏に宛てた文面には、マイクロソフトのアクティビジョン買収は「(CoDのXbox)独占に向けた動きでは全くない」「(Xbox)ボスのフィルやボビー(コティック/アクティビジョンCEO)の2人とかなりの時間を過ごしたが、今後何年もPlayStation向けにCoDがリリースされ続けると確信している」と語ったことが明かされていました。
しかし、その後にスペンサー氏がThe Vergeなどのメディアに「あと数年」PlayStationにCoDを提供し続けることを約束したと発言。さらにライアン氏はスペンサー氏から「現行の契約期間が終わった後、3年間」PlayStation版CoDを販売することを提案されたとして不満を表明。
その際、「スペンサー氏がこの件を公の場に持ち出したので、記録を正す必要があると感じた」とも付け加えていたことから、マイクロソフト側がソニーとの内密の話し合いではなく、メディアを通じて世論や規制当局を味方に付ける戦略に出たことで事態を拗らせた可能性もあります。
ともあれ、FTCがマイクロソフトによるアクティビジョン買収計画の仮差止を求める訴訟に敗れ、その上訴も棄却されたことで、米国・EUでの障害はなくなり、買収成立に向けてまた一歩前進しています。
残るハードルは、英CMAのクラウドゲーミング独占に関する懸念への対処のみ。CMAはマイクロソフトとの協議は初期段階に過ぎないとコメントし、最終的に買収契約を許可するか、最終的な命令を下す期限を7月18日から8月29日に延長しています。すでに詰めの段階に差し掛かっているものの、決着まではあと少しかかりそうです。