(参考製品名 「OD3-230A」(イメーション)他)
[種類] 光磁気ディスク
[記録方法] 光変調方式、マークポジション、ZCAV
[メディアサイズ] 90×94×6mm
[記録部サイズ] 直径約86mm
[容量] 230MB
[登場年] 1994年頃~
ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。
ロストメモリーズの記事一覧「3.5インチMOディスク(第2世代)」は、光と磁気を使って読み書きを行う光磁気ディスクのひとつ。128MBだった第1世代から容量が約2倍に拡張されたほか、多くのメーカーがドライブ製造へと参入することで価格が大きく下がり、MOが普及する足がかりとなりました。
128MBからどのように容量を増やしたのかといえば、大きく2つの変更が加わりました。ひとつは、使用するレーザーの波長が825nmから780nmへと短くなったこと。これにより、間を詰めて記録できる……つまり、単位面積当たりの記録密度が高められているわけです。
具体的に数値でいうと、渦巻状のトラックの間隔(トラックピッチ)が1.60μmから1.39μmへと変更になったほか、トラックに記録するマークの間隔が1.56μmから1.30μmへと詰められています。
もうひとつの変更は、ディスクの制御方式にCAV(Constant Angular Velocity)ではなく、ZCAV(Zone Constant Angular Velocity)を採用したこと。CAVはトラックあたりのセクタ数を一定とするもので、制御が簡単なものの、外周に行くほど記録密度が低くなってしまうという欠点がありました。
これに対しZCAVは、外周に行くほど段階的にセクタ数を増やすという方式。制御は多少難しくなりますが、内周でも外周でも記録密度をほぼ一定にできるため、そのぶん記録できるデータ容量が増やせるのがメリットです。
これら2つの変更により、約2倍という大容量化が実現されました。
ということで、この230MBの3.5インチMOカートリッジを見ていきましょう。
形状は128MBを継承し、互換性を重視
カートリッジの形状は、128MBと基本的に同じ……というか、変わりません。これは互換性のためで、230MB用のドライブでも128MBカートリッジがそのまま使えるようになっていました。
おさらい的に形状の特徴をあげると、左上に斜めにカットされた部分があることと、左右の下部に凹みがあること、アクセスウィンドウがシャッターで保護されていることあたりでしょうか。
斜めにカットされている部分は、誤挿入防止機構。裏表や前後間違えてドライブに入れてしまっても、この部分がないとそれ以上中に入っていかないようになっています。
下部の凹みはグリッパスロットという名前がついており、どうやらオートチェンジャーで掴んだり、固定したりするのに使われる部分のようです。そういえば、この時代のカートリッジタイプの光ディスク全般に、この凹みがありましたね。
ちなみにこれは表面ですが、規格上の名前はB面となります。ディスクのアクセスに使う側をA面としている、と考えればわかりやすいです。
裏面、上部の左右にある半円はディテントで、挿入したカートリッジが勝手に飛び出してしまわないよう引っ掛ける場所。また、グリッパスロットのすぐ下にある穴は、右側がロケーション孔、左側がアライメント孔という名前があり、どちらもカートリッジの位置決めに使うものです。
ディスクとモーターを接続するハブは、裏面からの片側接続。そのため、シャッターは表面が短く、裏面が長いという形状になっています。このシャッターはバネで自動的に閉まりますが、ロック機構はなし。指でスライドすれば、簡単に開きます。
ディスク面を見てもらえるとわかるように、セクタの区切りがCAVのように放射状ではなく、外周にいくほどに段階的にズレていっています。これは、ズレているところでトラックあたりのセクタ数が増えていっている証拠。具体的には、1つズレるごとに2つセクタが増えています。
数えてみると、最内周から最外周まで、トラックは12の領域に分割されています。このうち、最も内側は「リードインゾーン」で、フォーカスの位置合わせ、読み書き試験などを行うほか、メディアの特性情報が書き込まれている領域です。
続く10の領域は、「データゾーン」。実際のデータはここに記録され、読み書きに利用されます。
最後の領域は「リードアウトゾーン」で、主に、リードインにもあった読み書き試験を外周で行うための領域です。
CAVとなる128MBのディスクでは、トラックあたりのセクタ数は25で統一されていたため、単純にトラック番号+セクタ番号で任意の位置へアクセスできました。
しかし、ZCAVとなる230MBのディスクでは、データゾーンは10の領域(バンド0~9)に分割され、トラック当たりのセクタ数は30~48まで変化します。そのため、単純なトラック番号+セクタ番号というアクセス方法では、存在しないセクタを指定してしまう危険があるほか、存在するのに使用されないセクタが出てしまう可能性もあります。
これをシンプルに解決するため、物理的なフィジカルトラックとは別に、論理的なロジカルトラックを規定。具体的にどうしているかといえば、25のフィジカルトラックを1グループとし、この中で25セクタごとにロジカルトラックへと割り当てています。
例えばバンド0の場合は、トラック当たりのセクタ数は30ですから、1グループが25フィジカルトラック×30セクタになるわけです。これをロジカルトラックへと置き換えると、30ロジカルトラック×25セクタ。セクタの増加をトラック増加と見なせるため、存在しないセクタを指定してしまう危険がなくなります。単純な計算で変換できるのもいいところですね。
この変換が自動で行われるため、ZCAVによるセクタの増減を気にすることなく、利用できるようになっています。
ライバルとの激しい競争でリード
1994~1995年辺りはFDに代わるリムーバブルディスクの争いが激しくなっていった頃で、低価格ドライブを武器にしたZip、650MBという大容量が強みのPDなど、強力なライバルが登場してきていました。
しかしMOは、128MBモデルで先行していたということに加え、いち早く230MBモデルを投入できたというアドバンテージがあり、シェアを落とすことなく普及。多くの企業や個人に使われるようになりました。とくに出版業界ではデータ入稿用のメディアとして標準となり、これが長いことMOが消えずに残っていた理由にもなっています。
ちなみに、国税庁への資料提出に使えるディスクとしてMOがありますが、これで指定されているのは230MBと640MB。このことからも、この2モデルはMOの中でも特別という印象です。
速度は相変わらず速くなかったのですが、キャッシュ増量や回転数の向上による高速ドライブが登場したり、消去せずに書き換えられるOW(オーバーライト)に対応したりと、登場後の改良で高速化が行われました。
ドライブのメーカーはかなり多く、富士通、オリンパス、コニカ、松下電器産業、リコー、IBMなど。カートリッジも多くのメーカーから発売され、価格競争によって低価格化が進み、MOのシェアが拡大する理由になったと考えられます。
1996年には第3世代となる640MBモデルが登場しますが、その後もエントリーモデルとして230MBのドライブが販売され続けたというのは、興味深いところ。これは、過去の資産のためにドライブを残すという意味合いが強そう。このあたりから、MO離れとCD-Rへの移行が始まったと考えるのが自然でしょうか。
参考:
「90mm/230MB光ディスクカートリッジ」, JIS X 6275, 日本産業標準調査会
重田定明, 「光磁気ディスクの現状と技術動向」, 日本印刷学会誌 第32巻第5号(1995), J-STAGE
「3.5型MO仕様一覧表」, 三菱ケミカルメディア, WayBack Machine